研究課題
紋枯病菌の病原性関連遺伝子を同定するため、モデル植物であるミナトカモジグサを用い、感染葉内に侵入した菌糸をできるだけ多く回収できる同調感染系を確立した。紋枯病菌のゲノム情報から、バイオインフォマティクス手法で分泌型エフェクター様タンパク質候補を88個同定した。昨年度は、これら遺伝子の定量PCRによる解析を進めてきた。しかし、各エフェクター候補のジーンモデルについて、別途寒天培地上で生育させた菌糸のRNA-seq解析から得た発現データと照合したところ、多くの遺伝子でエクソンとイントロンの位置の修正が必要なことがわかった。そこで、この修正したアノテーションデータを用いた再評価により、候補は61個に絞られた。これらの各遺伝子を定量PCR法によって検出するためのプライマーを設計し、感染後6、10、16、24、32時間の時点における発現量を解析した。この結果、52個が感染過程で発現していることが確認された。また、これらはその発現プロファイルから6個のクラスターに分類され、感染初期に発現するものとして23個、感染後期に発現するものとして29個が特定された。現在感染後期に発現するエフェクター候補遺伝子について、まずはアグロバクテリウムを利用した一過的発現系において植物への壊死誘導能を検証しているまた昨年度までに、エフェクターの機能を解析するための別法として、病原細菌であるイネ白葉枯病菌に紋枯病菌エフェクターを異種発現させて、その病原性に与える影響を評価するための方法を検討してきた。この結果、イネ白葉枯病菌はミナトカモジグサに一定の感染性を示し、実際にエフェクターを注入していることを明らかにした。ミナトカモジグサには罹病性系統と抵抗性系統が存在しており、この抵抗性は複数のレースに対して発揮された。現在、この抵抗性のイネとミナトカモジグサでの保存性について調べている。
3: やや遅れている
当初の予想と異なり、公開されているゲノム情報が多くの候補遺伝子において誤っていることが明らかになったため。ただし、これらは自前のRNA-seqデータを用いることで修正し、リカバリーすることができた。結果的に正しい結果を導き出すことができ、研究としては世界に通用する一定の成果を出せたと考えている。またその他の計画についても平行して実施してきたので、大幅な遅れにはつながっていない。
各候補遺伝子を、III型分泌系を介して分泌されるように白葉枯病菌に組み込み、その病原性(菌増殖)に与える影響を調べることで、病原性機能を定量評価する。また、ミナトカモジグサの白葉枯病菌に対する抵抗性機構を調べることで、白葉枯病菌に対する抵抗性機構の保存性や新規抵抗性遺伝子を発見という基礎的知見を明らかにし、ミナトカモジグサのモデル評価系としての地位確立を目指す。
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