TMVの130K複製タンパク質の一部であるMetIR断片は、ゲノムRNAの5'末端近傍の約100ヌクレオチドの領域に結合して約1 MDaの複合体 (PMTC) を形成する。これは、130Kタンパク質による複製鋳型認識の一端を反映するものと考えられている。これまでの研究で、この複合体形成の効率が、標的RNAの5'末端に2個のG残基を挿入することにより高まることが明らかになった。本年度は、その原因を解明するために、また、PMTC形成に関与する宿主因子が同定できることを期待して、G残基の挿入がないRNAと挿入があるRNAに結合する宿主タンパク質をシロイヌナズナの細胞抽出液から精製し、SDS-PAGE-銀染色およびLC-MS/MS法により解析した。精製されたタンパク質の組成にG残基の挿入があるRNAとないRNAの間で大きな差はなく、いずれにおいても以前この領域に結合することを報告したBTR1が検出された。また、試験管内翻訳によりMetIR断片を合成したタバコ細胞抽出液からも、同様の精製により、MetIR断片とともにいくつかの宿主タンパク質が得られたが、G残基の挿入があるRNAとないRNAの間で結合タンパク質の組成に大きな差はみられなかった。 転写産物の3'末端構造の比感染価に及ぼす影響を明らかにするために、制限酵素処理により線状化したプラスミドDNA、あるいはTMV RNAの3'末端2ヌクレオチドに相当する部分に2'-メトキシ基を導入したプライマーを用いてPCRで合成したDNAを鋳型として合成したRNA(前者は3’末端に数塩基の付加をもつが、後者はもたないと想定される)をタバコの細胞抽出液を用いた試験管内翻訳複製反応に付したところ、両者は同程度複製し、その程度は等量のウイルスRNAを翻訳複製した場合より顕著に低かった。
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