研究課題/領域番号 |
18H02214
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小野 肇 京都大学, 農学研究科, 准教授 (70452282)
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研究分担者 |
片岡 宏誌 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (60202008)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | エクダイソン / ステロイドホルモン / 生合成 / 前胸腺 / ショウジョウバエ / カイコ / 植物トリテルペノイド / 生合成阻害 |
研究実績の概要 |
昆虫のステロイドホルモンのエクダイソンの生合成経路の全容は未解明のままである。エクダイソンの生合成経路では、食餌由来のコレステロールを出発原料として7-デヒドロコレステロール(7dC)が最初に生合成される。この生合成経路の解明を目指すにあたり、昨年度までに、2種類の新規化合物が中間体候補物質と考えられる結果を得た。これらの化合物をエクダイソン欠損ショウジョウバエ幼虫に摂取させると脱皮不全がレスキューされることを示している。また、重水素ラベル体がカイコ前胸腺培養でラベル体エクダイソンへと変換されることを確認している。しかし、2種類の新規化合物を合成したものの、その過程で同時に立体異性体が生成し、目的物質を純粋に精製することが困難である問題に直面している。同時に、中間体候補物質が不安定な化合物であることも解析を困難とする要因となっている。そこで、本年度は、中間体候補物質の再合成を試みた。さらに、重水素化ラベルした7-dCの大量合成にも着手した。また、植物由来のトリテルペノイドであるククルビタシンBおよびE(CucBおよびCucE)が、ショウジョウバエの発生に与える影響について検討した。CucEを投与した幼虫は、ほとんどが2齢または3齢の段階で死亡したが、CucBを投与した幼虫はほとんどが脱皮せずに死亡した。カイコのステロイド生成器官である前胸腺にCucBを添加して培養した結果、エクダイソンが低下した。これより、CucBがエクダイソン生合成の阻害剤として作用する可能性を示した。加えて、植物精油を用いてミバエ科昆虫の嗅覚受容体を同定し、昆虫感覚生理に関する知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生合成経路の解明に道筋をつけることができた。さらに、植物トリテルペノイドがエクダイソン生合成を阻害するという新規の知見を得て国際誌に報告することができたため、上記の評価をした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られたエクダイソン生合成経路に関する知見を論文と報告するための十分なデータを得る。すなわち、有機合成で生じる複数の立体異性体から各物質を精製し、立体配置を決定する。同時に、有機合成した重水素ラベル化された7dCから未知中間体を合成・精製する。各立体異性体のうち、どの化合物がラベル体エクダイソンへ変換されるかをカイコ前胸腺を用いて中間体構造を確定する。具体的には以下を計画している。 1)2種類の新規化合物が中間体候補物質と考えられる結果が得られている。しかし、いずれの化合物も有機合成において4種類のジアステレオマーが生成する。この立体異性体をジアステレオマーの分離に優れている逆相カラムを用いて分離精製する手法を確立する。精製した各化合物を、エクダイソンを生合成できず脱皮不全となり死亡する変異型幼虫に摂取させて、脱皮が生じるか検証する。活性を示した化合物についてNMRをはじめとする様々な分析法を用いて、立体構造を確定する。 2)現在、重水素ラベル体7dCの大量合成を進めている。これを原料に1)で決定された中間体のラベル体を有機合成する。合成したラベル体化合物を器官培養したカイコの前胸腺に添加して、ラベル体エクダイソンへと変換されるか確認する。
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