研究課題/領域番号 |
18H02219
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
今 孝悦 筑波大学, 生命環境系, 助教 (40626868)
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研究分担者 |
AGOSTINI SYLVAIN 筑波大学, 生命環境系, 助教 (20700107)
和田 茂樹 筑波大学, 生命環境系, 助教 (60512720)
BENJAMIN HARVEY 筑波大学, 生命環境系, 助教 (70785542)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 海洋酸性化 / 二酸化炭素 / CO2シープ / 生物群集 / 間接効果 / 直接効果 |
研究実績の概要 |
海洋酸性化は、資源生物を含む様々な種の成育を阻害し、生残率を低下させる深刻な環境問題である。本研究では、伊豆諸島・式根島に存在するCO2シープ(海底からCO2が噴き出し、天然の生態系全体が既に酸性化している海域)を用いて、海洋酸性化に対する生物群集の応答を評価することを目的としている。 本年度は酸性化の影響が顕著であった腹足類、とりわけ重要な生態的地位を占めるカサガイ類に焦点をあて、酸性化海域(3定点)と通常海域(3定点)の物理環境要因および生物群集構造の野外調査を継続した。加えて、石灰化への直接効果を見積もるために貝殻性状を計測し、また、捕食者回避行動に対する影響評価も行った。野外調査の結果、カサガイ群集の種組成は、酸性化海域と通常海域で明瞭に異なることが判明した。ウノアシ個体数は酸性化海域で有意に減少する一方で、カラマツガイには有意差が認められず、両海域で高密度に保たれていた。しかし、貝殻の性状に関しては、殻層の厚さおよび殻密度ともにカラマツガイとウノアシに海域間で大きな相違は認められなかった。他方、捕食者からの逃避行動については、カラマツガイでは、海水条件の違いで行動に有意差は認められなかったものの、ウノアシについては酸性化海水下で、逃避の初動に要する時間が遅延し、また、捕食者からの逃避距離も有意に短縮されることが判明した。高CO2環境は、神経伝達に関わるGABA受容体に影響を及ぼし、腹足綱の嗅覚能を低下させることが知られている。従って、ウノアシの逃避行動の鈍化は、捕食者を認識する機能の低下に起因すると推察された。他方、カラマツガイは、嗅覚以外にも発達した視覚器官を有しており、潜在的に、捕食者の視覚認識が可能である。こうした知覚機構の相違が、捕食者に対する応答の違いをもたらし、延いては、カサガイ種組成を改変する一因となった可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、各調査定点にて通年にわたる群集調査を終え、さらに室内実験にて行動様式への影響評価も完遂できたため。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も計画通りに研究を遂行できたため、来年度も計画に即した内容を実施する。
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