研究課題/領域番号 |
18H02220
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮下 直 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (50182019)
|
研究分担者 |
滝 久智 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (80598730)
横井 智之 筑波大学, 生命環境系, 助教 (80648890)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 送粉サービス / 生物多様性 / ミヤマシジミ / ソバ |
研究実績の概要 |
本年度は、ソバの結実に与える昆虫類の送粉サービスの時空間変動を明らかにするとともに、長野県飯島町のソバ畑周辺の草地に生息する絶滅危惧種ミヤマシジミの個体群に対する影響を調べた。 1.ソバの結実: ソバの結実については、夏と秋の2時期で各16か所のソバ畑を調査した。送粉者の体サイズ別の貢献度の推定するため、小型の昆虫のみ通過できる網目の袋をソバの花序にかけた。袋は開花が始まる頃に設置し、収穫前に花序を回収し、後に結実率を算出した。その結果、小型昆虫は大型昆虫と同程度あるいはそれ以上の貢献をしていた。また全昆虫貢献と小型昆虫貢献は「森林」と正の相関があり、大型昆虫貢献は「その他」と正、「水田」と負の傾向がみられた。また小型昆虫貢献と大型昆虫貢献は、季節を考慮しても負の相関があり、空間的な相補性がみられた。 2.訪花昆虫:ソバ畑15枚を対象に、15分間の見つけ採り調査により、畦の野生開花植物とソバへ訪花する昆虫を採集した。また畦に生息する開花植物の種および花数を記録した。野生開花植物および局所景観構造を併せて解析した結果、畦の野生開花植物種数と周辺の森林率がソバの訪花昆虫個体数を増加させる効果をもつことが明らかになった。 3.ミヤマシジミの個体群: 食草であるコマツナギの群落330か所を対象に、成虫と幼虫の個体数や、植生構造、草刈り頻度、共生アリの個体数など調査を行った。その結果、食草被度・食草の若い葉の割合・共生アリ密度は、草刈り頻度に対して異なる時間応答を示した。また、局所個体数はどの世代も共通して草刈りから約10週後に最大となることが推察されたさらに、移動分散スケールを探索的に推定した結果、局所個体群の動態は、移動分散を介して250~500mの範囲でメタ個体群を形成していると考えられた。また周辺のソバ畑の面積も正に効いていた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ソバの結実に対する送粉サービスの評価は順調に進んでいる。季節変動や、昨年の調査との比較による年変動も明らかになった。特に重要なのは、大型昆虫と小型昆虫で送粉サービスに時間的空間的相補性があること、また景観構造についても送粉者を介して相補性があることもわかった。この知見自体が当該分野においては極めて新規性が高い。また、畦の開花植物の存在が、ソバへの訪花昆虫の個体数を増やすという重要な知見も得られた。さらに、ミヤマシジミの個体数が、周辺に秋ソバが存在する環境で増加することも明らかとなった。以上の結果から、ソバ生産と生物多様性の間の正の相互関係が、既に1年目の時点で明らかになってきている。また申請者の尽力により、東大農学部と長野県飯島町の間で平成18年8月に連携協定が締結され、研究の推進とその成果を地域へフィードバックする仕組みができた。すでに、講演会も数回実施しており、地域からの期待も大きい。
|
今後の研究の推進方策 |
ソバの結実については、調査範囲を広げて飯島町全域をカバーできるデザインを組んでいる。また、結実率が畑レベルの収量とどう関係するかについて、営農団体の協力を得て明らかにしていく。とくに、天候の年変動や季節変動が結実率や収量にどう影響するかの調査を重点的に行う。 また今年は、訪花昆虫と結実の因果関係をより明確にするため、実験的に畦の草刈り管理の異なる畑を設け、畦の野生植物の多様性が訪花昆虫の個体数を介してソバの結実にプラスに働くかどうかを検証する。さらに、天候により訪花昆虫の種構成がどう変化するかも明らかにする。 ミヤマシジミについては、ソバ畑との関係を更に明らかにするため、ミヤマシジミのソバへの訪花頻度や、共生アリのソバ畑内での分布や行動を明らかにする。また、実験的な畦の草刈り管理により、ミヤマシジミの応答を観察する。
|