研究課題/領域番号 |
18H02221
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
佐々木 雄大 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 准教授 (60550077)
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研究分担者 |
陶山 佳久 東北大学, 農学研究科, 准教授 (60282315)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 生物多様性 / 生態系サービス / 古環境復元 / 生態系保全技術 / ランドスケープフェノロジー |
研究実績の概要 |
今年度は2019年8月上旬から8月下旬にかけて、2009年に行った植生調査の再調査、泥炭コア採取、雪解け時期の異なる湿原辺縁部での植生調査を完了した。また、雪解けの終わった6月上旬から全ての植物が落花する9月下旬まで、ドローン空撮による花フェノロジー(開花、開花のピーク、終花)の調査を行った。泥炭コアについては、泥炭堆積物中のDNA解析を完了した。植生再調査のデータは解析が進んでおり、その一部の結果について現在論文化を進めている。2019年度中に得られた全てのデータをベースとして、国内学会発表(日本生態学会第67回大会)を6件行った。
目下取り組んでいる投稿論文化では、得られたデータを用いて、課題で着目している絶滅の負債(将来減少しうる多様性の量)の定量化を行っている。結果、湿原における現在の植物種数は、直近よりも過去の湿原の空間的凝集度によって説明できることがわかった。すなわち、2015年および2003年ではなく、1967年の空間的凝集度と現在の植物種数の間に相間がある。この湿原の空間的凝集度は、各湿原がその時点までに分断化した程度を表す指標である。このことから、湿原における現在の植物種数は1967年よりも以前に起こった湿原の分断化プロセスを反映していることが示唆され、対象とした湿原群では将来的に植物種数が減少する可能性が示された。2020年5月現在、現時点までに出揃った結果の論文化が予定通り進んでおり、年度内に2編ないし3編の論文の投稿を完了する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、7月から9月にかけて、研究対象地域において例年に比して濃霧・曇天・雨天の日が極めて多く、解析に耐えうる空撮画像データを十分に蓄積できなかった。2019年度は調査体制を変更し(空撮の時間間隔を短くする、空撮期間を6月初旬から9月下旬に拡充する)、かつ天候の条件に比較的恵まれたため、画像データを十分に獲得することができた。 2018年度および2019年度に蓄積したデータの解析も順調に進んでおり、途中成果および完成された成果の一部は、国内の関連学会で研究発表を行っている。 成果の論文化も予定通り進んでおり、今年度から来年度前半にかけて、成果についての情報発信が進む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、青森県八甲田山系に点在する20の湿原群で行う野外調査をベースとしている。次年度の調査は、新型コロナウィルス影響の状況による予定変更の可能性を前提としつつ、2018年夏期に再調査を行った永久調査トランセクト(2009年の調査時に設置)において、訪花昆虫相の観察データを取得予定である。また、2019年度に取得した、対象湿原における湿原全体のドローンの定期空撮画像(2 ~3日に1回撮影)の解析を進め、論文を作成する。現在までのところ、画像データから複数種の花を判別するための教師データを作成し、深層学習によって、湿原内の開花個体の判読を完了している。開花期が異なる種について、花フェノロジー(開花日、開花ピーク、終花日)の変動 およびそれを規定する環境要因の解析を行う。 さらに、次年度は湿原内の種分布と湿原面積減少の空間パターンから湿原生態系の多様性変化をシミュレーションすることで、多様性変化予測に基づく保全優先度づけを議論する。 実際に起こりうる種の消失は、湿原内の種分布や湿原の面積が減少していく傾向(雪解け時期等の湿原内での違いにより、減少しやすい場所と減少しにくい場所が湿原内に存在する)によって異なるため、これらを考慮した解析を進める予定である。
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