研究課題/領域番号 |
18H02223
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
肘井 直樹 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (80202274)
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研究分担者 |
水谷 瑞希 信州大学, 教育学部, 助教(特定雇用) (20630354)
吉田 智弘 東京農工大学, 農学部, 准教授 (60521052)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | カラ類 / 針葉樹人工林 / 繁殖生態 / 生物多様性 / 広葉樹パッチ |
研究実績の概要 |
営巣したヤマガラ,シジュウカラ,ヒガラについて,産卵後から巣箱の内外にデジタルビデオカメラ,赤外線ビデオカメラを設置し,終日,採餌行動と給餌行動を記録した。当該年度は,途中,天敵による雛の捕食により画像データは限定的なものとなったが,記録できたものについては,これまでと同様に,画像から餌の種類と長さを記録し,別に作成した餌種ごとの体長-個体重のアロメトリー式を用いて,育雛餌の総量(現存量)の推定をすすめている。また,画像データから,雛の成長(日齢)に伴う給餌頻度,餌種の変化,およびそれらのつがい間,鳥種間の違い,採餌行動の時刻および天候への依存性などをこれまでに得られているデータと合わせて分析した結果,育雛餌は人工林内にはほとんど生息していない鱗翅目・膜翅目幼虫のほか,バッタ類,クモ類の3種にほぼ限られること,また鳥種間で広葉樹パッチとの距離によって餌メニューが異なること,とくに採餌範囲の狭い小型種のヒガラは,人工林内でも比較的多いクモ類に依存していることが再確認された。 また,本査地におけるヤマガラ,シジュウカラの繁殖開始時期が,餌となる節足動物群集の出現時期との同調性を通して,それぞれの種の繁殖成功に与える関係を解明するための予備調査として,別の調査地で行なわれた長期データに基づく両種の初卵日と積算温度の関係について解析を行った。その結果,シジュウカラはヤマガラより早い時期からの積算温量の影響を受けることが明らかとなり,本調査地においても上昇傾向にある気温の変化は,ヤマガラが早く繁殖を開始することのアドバンテージを低下させる可能性があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年8月の台風被害により,調査林分に大きな被害が出たため,巣箱,機材等の補修と補充を行なったが,令和元年度の営巣数はやはり少なく,しかもその多くが途中で天敵に捕食されて,想定していたデータは十分には得られなかった。本年度はコロナ禍による繁殖期調査の出遅れがあったものの,その後現在までのところは順調に推移しており,これまでに得られた同調査地での連年データと合わせて,最終年度の取りまとめは行なえるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は,小面積の班状広葉樹林(広葉樹パッチ)が残存する針葉樹人工林内に代替営巣場所としての巣箱を設置し,シジュウカラ科鳥類を対象として,鳥種ごと,つがいごとの繁殖生態と,採餌場所となり得る広葉樹パッチとの関係を明らかにすることにより,森林性鳥類の定着を図り,多様性の低い人工林生態系の多様性向上と捕食圧強化による系の安定化に寄与する広葉樹パッチの存在意義を定量的に示すことを最終的な目的としている。これまでの研究成果と本研究課題で得られる成果を統合することにより,鳥類の年ごとの変動様式と長期的な定着可能性を予測し,これまで生物多様性が低いとされてきた針葉樹人工林の保全方策と今後の人工林育成の方向性を提示できるものと考えている。
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