これまでに複数の水系より生物試料または耳石安定同位体比を入手し、同位体分析を行い、2018年度に改良された判別モデルを用いて天然加入個体・放流個体の識別を進めた。2020年度以降は新型コロナウィルス感染拡大防止の観点より、予定していた試料採集が行えなかった。しかしながら、過去に収集した資料及び既往研究よりデータを収集し、青森県から鹿児島県に至る17府県21水系よりニホンウナギの放流個体/天然遡上個体の判別データを入手した。採捕個体数に占める放流個体の割合は0.0%から100.0%と幅広く、水系と黒潮との距離、及び採集水域の下流側の河川横断工作物の存在と相関していると推測された。 収集した生物試料の一部には、胴体を食用として消費したのちの、頭部のみのものが一定数存在する。ニホンウナギは経済的価値が高いため、漁業者によっては個体全体の買取が難しく、頭部のみ入手可能である場合がある。このため、成長率の比較などのため、頭部から得た耳石から全長を推測する予測モデルが必要とされていた。2021年度に引き続き、日本と台湾から入手した2752個体(天然2427個体、養殖325個体)の耳石、合計4071個(右1819個、左2252個)を使用して、耳石径と全長の関係を整理した。左右の耳石が揃っている1354個体(天然1294個体、養殖60個体)を用いて解析を行った結果、長径、短径と全長の関係に耳石の左右差は有意な影響を与えていなかった。天然個体のみ2427個体を用い、線形回帰と非線形回帰でそれぞれ説明変数に長径、短径、長径+短径を用いて、one-leave-outクロスバリデーションを行った。非線形で説明変数に長径+短径を使ったモデルが最も当てはまりが良いことが判明し、耳石径よりニホンウナギの全長を推測する適切なモデルが得られた。
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