研究課題/領域番号 |
18H02226
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
柴田 昌三 京都大学, 地球環境学堂, 教授 (50211959)
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研究分担者 |
福井 亘 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (60399128)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 都市及び周辺緑地 / 環境緩和機能 / 生物多様性維持機能 / 統合的評価 / 都市の縮小化 |
研究実績の概要 |
初年度には研究計画に示した十の小テーマのそれぞれについて研究成果の蓄積と発信が行われた。研究成果の発信にまで至ったものは以下のとおりである。 京都市内における自生種分布については、エノキ、ムクノキ及びケヤキに関する調査研究がまとまり、過去30年間にこれらの樹種が分布を減少し続けていること、孤立木については住宅地で小樹林については寺院でその減少が顕著であること、その要因として住宅地においては過密化に起因する迷惑性が作用していることが示された。また、ケヤキの天然更新はすでに困難となっていること、エノキとムクノキの更新のためには異なる立地を考慮する必要があることが示された。都市内水系に関しては、琵琶湖疏水及び白川下流域における水生植物群落について、その季節的消長が近隣住民の管理活動や底質によって影響を受けていることが示された。日本庭園の環境緩和機能に関しては伝統的な庭園空間が持つ温熱環境に関するデータが蓄積され、その成果の一部は国際学会で発表された。雨庭に関しては雨水貯留機能に優れていることが示され、その成果は国際誌に投稿された。さらに洪水緩和機能に関する解析も行い、その成果は台湾で開催された国際会議で発表され、当該国際学会誌から論文としての投稿に値する研究として選出された。鳥類による種子散布の可能性については、都市建築周辺と小規模線状緑地に関する研究成果がそれぞれ論文として公表された。 韓国ソウル大学及び中国精華大学との情報交換は、2018年度にはソウル国立大学において行った。日本から8名、ソウル国立大学から15名、精華大学から1名の研究者や大学院生が参加し、ソウル、北京及び京都における都市緑地に関する研究成果の情報交換を行った。また、ソウル市内の緑地の見学を行い、各国の緑地に対する考え方について議論を行った。なお、2019年度は北京で同様の情報交換を行うことを決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画で示されている小テーマのうち、京町家庭園に関しては論文執筆を開始し、同時に町中における緑の存在意義だけではなくその空間が持つ生物多様性維持機能に関する新たな視点を持った研究を開始した。自生種分布空間の解析に関しては得られた成果を論文として投稿し、そのうちの一編が受理された。都市内水系に関しても論文として投稿し、現在査読中である。屋上の省力的緑化に関しては十分な成果が得られており、現在論文投稿の準備中である。日本庭園の環境緩和効果に関しては、これまでに得られたデータに基づいて夏季に関するデータを解析し、その成果については論文投稿の準備中である。街路樹がもたらす環境緩和効果に関しては、1200本を超える街路樹に関する基礎的なデータの収集が終了し、論文投稿のためのデータの解析が進捗中である。雨庭に関する評価についてはデータの解析を進め、一本の論文を投稿した。鳥類の種子散布の可能性についてもデータの蓄積が進み、一部は論文として投稿したほか、それ以外に得られたデータについても論文投稿の段階に入った。都市周辺里山に関しては、主として獣害による植生衰退の実態を把握することを目的とした研究計画の策定と実施のための準備を進めた。各テーマの研究成果に基づく総合的な提案に関しては、これまでに得られた成果の統合を試み、その方向性を議論した。 中国及び韓国との都市緑地に関する情報交換は、2018年度はソウルで行われ、共通の問題点とそれぞれの都市が持つ異なる問題点を見出した上で、東アジアとして考えるべき共通した問題点に関する意見交換を行った。これまで、欧米各国ではこのような視点を持った情報交換と問題点解決の具体化に関する活動が活発に行われてきたが、東アジアにおいてはこのような活動はそれほど活発に行われていないことから、この活動の進捗は今後国境を越えた共通理念の構築に向けて有意義である。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画における各小テーマのうち、京町家庭園については生物多様性についての調査を進め、成果をまとめていく。現在すでに、いくつかの町家庭園で来訪する鳥類の記録が始まっている。鳥類の来訪に関しては、それに影響を与えていると考えられる周辺の高層化建物群が与える影響についても考察を加える。都市内水路の評価に関しては、これらの周辺空間が鳥類に与える影響についてさらに調査を継続し、その存在価値について考察する。屋上の省力的緑化の可能性に関しては、シンガポールの事例調査を通して、京都におけるより具体的な可能性について解析を試みる。日本庭園における環境緩和機能の解析に関しては、すでに得られている夏季の評価結果を国際誌に投稿する。また、冬季のデータに関しては今年度に解析を進め、冬季の緑地空間の持つ特性を解析する。街路樹の環境緩和機能評価に関しては、得られたデータの解析を進め、国際誌への投稿を行うほか、アメリカで構築された環境評価モデルであるi-Treeシステムによる評価も行い、日本への適正化を試みる。雨庭が持つ環境緩和機能の評価に関しては、すでに終了した雨水貯留機能の解析に加えて、洪水調節機能に関する解析結果についても国際誌への投稿を行う。都心部緑地における鳥類による種子散布の可能性の検討に関しては、データが着実に蓄積されていることから、国際誌への投稿のための解析を進める。都市周辺域における獣害の問題に関しては、それを解決するための社会の動向に関する情報を収集し、問題解決のための方向性を考察する。総合的な提案の構築に関しては、これまでに得られた様々なデータに基づいて、何に注目し、何を考察すべきかを考察する。 東アジア3都市間の情報共有に関しては、2019年度は北京で、2020年度には京都でワークショップを開催し、都市緑地が持つ問題点と可能性について話し合う。
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