研究課題/領域番号 |
18H02228
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
石川 幹子 中央大学, 理工学部, 教授 (30296785)
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研究分担者 |
大澤 啓志 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (20369135)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | グリーンインフラ / 復興計画 / 国土計画 / レジリエンス / 社会的共通資本 / 海岸林 / コミュニティ / 多重防御 |
研究実績の概要 |
東日本大震災の発生から8年が経過した。本研究は、この間の復興計画及び事業の経緯を「復興・国土計画におけるグリーン・インフラストラクチャー(以下GIと略する)」の形成という視点から捉え、今後の国土形成における基本的視座を構築することを目的とした。2018年度の研究は、大きく次の5つの課題に対して実施した。 第一は、現在、世界各地で次世代型の社会的共通資本として取り上げられているGIを、日本に焦点をあわせ、近代化の歩みのなかでGI形成の系譜を検証した。成果は、学術図書『グリーンインフラ、地球環境の持続的維持に向けて』(中央大学出版会)として、近日中に出版される予定である。第二は、世界的に災害が多発する中で東日本大震災からの復興は、極めて重要な教訓であり、その復興のプロセスを真の力となったコミュニティの復興を、意思決定、行動、社会実装という視点から検討し、『Earthquakes-Impact,Community, Vulnerbility and Resilience』の中でMethodology for Community- Based Resilient Reconstructionとしてとりまとめた( DOI: 10.5772/intechopen.85790)。第三は、海岸林のモニタリング調査を行い、津波被災後8年間の継続的調査を踏まえ、海岸林のエコシステムの変遷を調査し論文発表を行った。第四は、海岸エリアの生物多様性の回復をめざした「里海型海岸林の形成を被災地において実施しており、被災者による苗木の栽培、森の育成活動を行っている。第五は、復興集落及び農業地帯の調査を行い、多重防御の構造、農村構造の変遷について論文発表を行った。第六は、中国四川省都江堰市を対象とし、四川ぶん川大地震(2008年)からの農村地帯におけるGIの変遷と保全、再生について研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究のテーマであるグリーンインフラ(GI)は、国土形成計画の中で次世代の社会的共通資本として取り上げられ、現在、大きな社会的関心を集めている。「日本学術会議・環境学委員会都市と自然と環境分科会」において「GI研究会」(委員長:研究代表者)が立ち上がり(2018年1月)、国土保全・森林管理・河川計画・気候変動・洪水・雨水排水・都市環境計画・健康・福祉・法制度などの専門家が検討を開始している。このような動向を踏まえ、GI概念の整理と東日本大震災を踏まえた構図の提示が強く求められた。 研究課題の第一である「国際的視野でのGIの系譜に関する研究」(マクロ分析)は、この構図を提供することを目的としたものであり、日本の近代化とGI形成の系譜のとりまとめを行ったものが、『グリーンインフラ、地球環境の持続的維持に向けて』(中央大学出版会)である。国際比較としての四川ぶん川大地震と復興については、現地の農村調査を重ね、シンポジウムを現地政府と協働で開催し、研究を継続している。 研究課題の第二である「東日本大震災からの復興まちづくりと沿岸域の再生からみたGIの構築に関する研究」(ミクロ分析)は、復興の主体であるコミュニティに焦点をあわせ、被災地のコミュニティの協力を得、8年間の経緯と合意形成のシステムをとりまとめ、国際学術誌に発表を行った。この反響は大きなものがあり、今後、世界各地の国際シンポジウムで発表を行っていく。 研究課題の第三である、「多重防御とと国土保全に向けた沿岸域のGIの形成」については、被災者コミュニティとの協働による「海岸性里山」の整備を社会的実験として実施している。8年に及ぶ海岸林モニタリングと、津波により消失した集落の住民により歴史的に培われてきた経験知を統合したものであり、生活に根ざした沿岸域の再生は、今後の国土保全、多重防御構造に大きな影響を与えていくと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は、以下の4点である。 第一は、「復興・国土計画におけるGIの役割と計画論」のとりまとめを行う。昨年度までに「都市計画」におけるGI計画の系譜と実績については、成果を公表することができた。これを踏まえて、今後は、評価軸として、機能(災害リスクの軽減)、生態系(生物多様性の向上)、社会のサステイナビリティ(コミュニティの回復)、文化(文化的景観の向上)の4つの軸に基づき、計画論研究を深化させていく。 第二は、津波被災直後より応用植物社会学に基づき海岸林の植生調査を行い、経年的変化のモニタリングを実施している。このような研究及びデータを有しているのは、東日本大震災の被災地では本研究のみであり、今年度は再度、群落調査を実施し、海岸林の変遷について学術研究をとりまとめ、論文発表を行う。また、社会的実験として、現在、展開している「海岸性里山」については、苗木の育成と樹林地の管理、生育状況のモニタリングを継続しており、この間、実施されている多様な海岸林の生育状況についても、併せて検討を行う。 第三は、復興の主体を担うコミュニティに関する研究を深化させる。復興10年目に向けて、集団移転地における生活も落ち着きを取り戻していることから、被災者コミュニティが主体となり、新しいまちを創り出した経緯と考え方について取りまとめる支援を行うと共に、復興計画の担い手という視点から学術研究を行う。なかでも、本研究では、コミュニティのコモンズとなっている公園、緑道、居久根等のGIに焦点をあわせ研究を行う。 第四は、復興計画の国際比較であり、中国四川省都江堰市と協力し、農村復興と再生について現地調査を踏まえて実施する。四川ぶん川大地震の発生は2008年であり、東日本大震災は2011年であることから、巨大災害後の復興を国際的視野から考察する上で、学術的知見を得ることができると考える。
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