研究課題/領域番号 |
18H02232
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山田 利博 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (30332571)
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研究分担者 |
松下 範久 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (00282567)
杉元 倫子 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (20353732)
横田 信三 宇都宮大学, 農学部, 教授 (60210613)
平尾 聡秀 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 講師 (90598210)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 腐朽 / 微生物 / 群集組成 / 群集機能 / 樹木 |
研究実績の概要 |
典型的な心材腐朽であるナミダタケモドキを原因菌としたサワラの根株心材腐朽被害を対象とした。 菌類DNA解析では、アンプリコンシーケンスによって菌類の群集組成をみることで、腐朽の進展に伴う菌類の遷移が示された。また、ナミダタケモドキのrDNA ITS領域の種特異的プライマーを設計し、リアルタイムPCRによりサワラ腐朽材中およびサワラ林の土壌中のナミダタケモドキの絶対定量を行った。サワラ腐朽材中のナミダタケモドキのrDNAコピー数は、腐朽が進行した部位に隣接した腐朽程度が低い部位で多かった。また、サワラ林の土壌からもナミダタケモドキを検出した。 材成分については、材内菌類群集組成に関して得られている結果を踏まえてサワラ腐朽材を分画・試料調製し、これまで被害が肉眼的に確認困難であった腐朽初期と考えられる材の成分にどの程度差異が確認できるかを検討した。その結果、腐朽のごく初期と考えられる試料間には今回行った分析法では明確な違いは見いだせなかったが、全体的には腐朽の進展に伴い材中に占めるリグニン量の割合が上昇する傾向が示された。 ナミダタケモドキについては、海外産菌には5つの隠蔽種があることから、日本産菌と海外の既知系統との系統関係を明らかにするため分子系統解析を行った。国内3か所から分離されたナミダタケモドキ菌株の28S rDNA領域の一部と5.8S rDNAを含むITS全領域、β-チューブリン領域の一部、熱ショックタンパク質領域の一部の塩基配列と海外産ナミダタケモドキの塩基配列データベース登録配列を用いて、系統樹を作成した。その結果、日本産3菌株は、いずれの方法で作成した系統樹においても、海外既知系統とは独立した1つのクレードを形成したことから、日本産ナミダタケモドキは海外産とは異なる新たな隠蔽種に属するものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成30年9月、抽出された菌RNAを分析したところ、当初の想定に反し、解析に必要な品質のRNAが抽出できていないことが判明した。そのため、RNA抽出方法の検討を行い、再度サンプルからRNAを抽出した上で、分析を進める必要が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度から繰り越した菌RNAの抽出、分析手法を確立する。このために、培養菌糸、腐朽が進行したサワラ材を試料として用いる。 これまでに伐採し広範囲の心材、腐朽材からの試料を採取したサワラ腐朽被害木、健全木についてもアンプリコンシーケンス解析を行い、健全心材、初期・中期・分解の進んだ腐朽部と腐朽の進展に伴う材内の空間的な微生物相の遷移パターンを把握するとともに、同じ個体の材から分離した菌類の同定結果と照合、比較する。 さらに、新たにサワラ腐朽被害木を伐採、解体し、腐朽の進行状況の異なる部位毎に採取した同じ試料について、アンプリコンシーケンス解析を行うとともに、発現遺伝子群を探索するためのRNAを抽出する。同時に、材の細胞壁構成成分(セルロース、ヘミセルロース、リグニン等)量およびその構造変化を木材成分分析により、抗菌的成分の変化をガス/高速液体クロマトグラフィ質量分析計、核磁気共鳴分光法を用いて分析する。材密度の変化の測定や、微生物の分布、材の構成成分、抗菌的成分について組織化学的観察による確認も並行して行う。 併せて、ナミダタケモドキの材内のジェネット分布、ひいては感染経路を探るために、腐朽材からナミダタケモドキの分離菌株を収集し、SSRマーカーの開発を進める。
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