これまでの研究から、日本全国40カ所の森林を対象として微生物群集の組成、量、遺伝的生理特性(メタゲノム)の地理分布のデータを収集し、それらの微生物データと土壌環境との間に有意な関係性を見出している。ここでは、気候、植生、土壌タイプ、土壌微生物相、窒素循環の間の関係性を整理することに加えて、日本全国の気候、植生、土壌炭素・窒素、土壌pH、土壌タイプなどのデータをデータベースから取得し解析に加えることで、40カ所の森林で得られた知見を日本全国のスケールに拡張することを試みた。以上に加えて、前年度からの課題として残っていた病原菌を含む真菌類の地理分布とその規定要因の解析を行なった。 まず、気候・植生・土壌タイプが土壌微生物群集の組成・量・遺伝的生理特性を規定し、それが窒素循環の速度に反映されるという、これまでに単一の森林で見られた図式を適用した。その結果、(1)植生が土壌pHを介して微生物群集の遺伝的生理特性、特にバクテリア群集の遺伝的生理特性を規定することでバクテリアと真菌の量比を規定していること、(2)土壌タイプが土壌の炭素・窒素量を介して土壌微生物の量を規定していること、(3)そしてバクテリアと真菌の量比と土壌微生物の量の両者が有機物分解を介して窒素循環の速度を規定していることを示した。このことから単一の森林で見られた図式を日本全国スケールにまで拡張できることを示せた。続いて、データベースから得た日本全国スケールの土壌環境データを用いて、微生物相と土壌環境との間で見出された有意な関係性を日本全国スケールに拡張し、「日本の森林の微生物相」を統合化した。病原菌を含む真菌類の地理分布とその規定要因の解析については、Covid-19の影響もあり解析に遅延が生じている。ITS領域遺伝子と18S rRNA遺伝子の全域の塩基配列解読を行っており、データが揃い次第、さらなる解析を行う。
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