研究課題
前年度から引き続き,地質,地形,土石流の規模,頻度が異なる3つの土石流発生渓流(南アルプス大谷崩,富士山大沢崩,スイスTaschgufer)において,山腹からの土砂生産状況の観測,土石流の材料となる土砂貯留量の観測,土石流の発生・流下状況の観測を行い,土石流の中長期的な予測に用いる「土砂貯留マップ」の作成に必要な調査手法の検討と,データの収集を行った。また,土石流の発生・流下予測を行うためのシミュレーション手法の検討を行った。大谷崩においては,UAV(無人航空機)を用いた地形計測を,山腹からの土砂生産後,さらには土石流の発生後に行い,土石流の材料となる不安定土砂の蓄積状況の経時変化を把握することができた。あわせて,タイムラプスカメラ等を用いた土石流の発生・流下状況の観測を行い,不安定土砂の蓄積状況が土石流の発生箇所に影響を及ぼすことを明らかにした。富士山大沢崩においては有人機等による地形計測成果を解析することで,不安定土砂の貯留状況の変化を調べた。それにより,不安定土砂の貯留量や地盤の凍結の有無により土石流の発生条件が変化することを示した。スイスTaschguferにおいては,岩盤の温度や水分量の変化を観測するなどし,土砂生産~土砂貯留~土石流の発生・流下に至る一連のプロセスに関するデータの蓄積を行った。これら3つの土石流発生渓流の現地観測と並行して,土砂貯留量や流域の水文特性を反映した土石流予測を行うため,シミュレーションシステムHyper Kanakoを用いたシミュレーション手法の検討を行った。
2: おおむね順調に進展している
南アルプス大谷崩,富士山大沢崩,スイスTaschguferの3つの調査地において,一部現地観測機器の不調や破損がみられたものの,現地調査によりおおむね当初想定したデータの蓄積を行うことができた。加えて研究開始から2年間の間に蓄積されたデータを解析することで,土石流材料の貯留状況が土石流の発生場所や発生条件へ及ぼす影響についての知見を得ることができた。これらの成果については国内外での学会における研究発表や論文の投稿により,公表を行った。土石流シミュレーション手法の検討についても開始することができた。研究者間での協力も役割分担のもと研究をすすめており,土砂生産,土砂の貯留,土石流の発生・流下,シミュレーション,それぞれの項目において,研究を進展させることができた。国内の調査地(大谷崩や大沢崩)の管理者である国土交通省や,スイスの調査地(Taschgufer)で共同研究を行っているジュネーブ大学からもサポートを受け,円滑に研究を進めることができた。
これまでに築いた現地観測体制を活用し,土石流の材料となる土砂の生産過程,流域内での土砂の貯留状況の経時変化,そして土石流の発生・流下状況についてのデータを蓄積していく。そして蓄積されたデータをもとに,本研究の達成に必要な「不安定土砂分布マップ」の作成を目指す。観測対象地は地盤が不安定であるため,観測機器が損傷するリスクも考えられる。このため定期的に現地へ行き,十分なメンテナンスを実施する。不測の事態や社会情勢等により現地調査の遂行が難しい場合は,本研究課題開始以前の関連研究で得られたデータをアーカイブするなどして,必要なデータの収集を行う。そしてこれらのデータや知見をもとに,土石流の発生・流下に関するシミュレーションを開始する。これまで同様に,研究代表者・分担者間での協力・分業体制のもとで研究をすすめる。国内の研究対象地を管理している国土交通省や,国内外の関連分野の研究者(スイス・ジュネーブ大学等)との連携のもと,研究を円滑に進行させる。
すべて 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
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