研究課題/領域番号 |
18H02250
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
梶田 真也 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (40323753)
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研究分担者 |
船田 良 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (20192734)
横山 岳 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (20210635)
奥泉 久人 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 遺伝資源センター, 主席研究員 (20370645)
光田 展隆 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究グループ長 (80450667)
池田 努 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (90334036)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リグニン / クワ / ゲノム / パルプ / 木材 |
研究実績の概要 |
赤材桑(セキザイソウ)は、約100年前に北海道の奥尻島内で発見されたクワの野生種である。個体の外的形態から当時は枝垂グワの一種と認識され、夏季において樹皮下の木部が赤く染まる特徴を持っている。本研究に先立つ予備検討の結果から、赤材桑の木材は塩基性条件の化学的な処理の下で、高い脱リグニン性を有していることが示唆された。リグニンのありようと木材の加工性との関係を明らかにすることは、木材の更なる有効活用に対して大きく貢献すると考えられる。 このような背景の下、本年度は材の赤色変化をもたらす遺伝的な原因を探ることとし、その第一歩として赤材桑のゲノム配列の解析を行った。赤材桑は個体の形態的な特徴からMorus. albaに分類されているが、クワ属ではM. notabilisを除いて全ゲノムが解読されていない。そこで、圃場で生育する赤材桑の葉から全DNAを抽出し、常法によりライブラリーを作製後、ショートリード解析型の次世代シーケンサーでDNA配列解析を行った。また、対照品種として赤材桑と形態が似ている鼠返を便宜的に選定し、同様にゲノム配列を解析した。両者ともに全ゲノムに対して100倍程度の深度で解析することができた。 一方、赤材桑は偶然にも野外で発見された野生種であるため、その遺伝的は背景が全く不明であり、各種の解析に際して使用するべき適切な対照品種がないのが現状である。このことから、花粉親として汎用される国桑21号を選定し、赤材桑と交配させるために両品種の接ぎ木苗を作成した。 更に、赤材桑の木材に含まれるリグニンの脱離性を評価するために、アルカリ蒸解(ソーダ)蒸解を行うこととし、他の4品種の木材を含めて個別にパルプ化を行った。その結果、予備検討で得られた結果と同様に、赤材桑の木材の高い脱リグニン性が確かめられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゲノム解析とそれに基づく遺伝子の相同性解析を行ったことにより、赤材桑において木材の赤色化に関与する原因遺伝子を推定することに成功した。また、国桑21号と赤材桑の接木個体を用い、互いの交配によるF1世代の種子も多数取得することに成功した。更に、パルプ化により5品種の木材の脱リグニン性能を比較することで、赤材桑の木材が他の4品種のそれらに比較して塩基性条件下での脱リグニンに優れていることが確かめられた。これらに加え、チオアシドリシス法や2次元NMRを用いてリグニンの構造解析を行い、赤材桑のリグニンが特徴的な分子構造を有していることも明らかとなった。 一方、赤材桑の遺伝子組換え個体の作出を行う目的で検討した組織培養においては、一部で栄養繁殖が可能であったものの、カルス等の未分化細胞を経由した個体再生条件の確立には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
一般的なクワの栽培形態においては、冬季に枝条を株元から刈り取ることが広く行われてきた。このため、株自体の樹齢が高い場合でも個体の樹高は小さいままとなる。現存する赤材桑も同様であり、毎年2月から3月にかけて枝条の刈り取りが行われるため、株元を除いて径の大きな幹は入手できない状況にある。比較的大きな試験片を用いて赤材桑の木材の物性評価を行うため、また多年に亘る栽培での生育状況を確認するために、赤材桑の接木苗を圃場に植え、経時的な観察を行うこととする。 また、本年度作出したF1種子からの個体を高接ぎすることによってこれらを早期に開花させ、F2世代の取得を図る。
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