研究課題/領域番号 |
18H02252
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
吉田 誠 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (30447510)
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研究分担者 |
五十嵐 圭日子 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (80345181)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | セルロース結合ドメイン / 褐色腐朽菌 / CBM / 溶解性多糖モノオキシゲナーゼ |
研究実績の概要 |
セルロースはその複数の分子鎖が互いに固くパッキングすることでミクロフィブリルと呼ばれる結晶性の分子鎖束を形成する。この結晶構造に由来する強靭な力学的特性は植物体の支持といった植物の形態維持に重要であることはもちろん、セルロースを利用する場合にも重要な特性となる。その一方で、セルロースには一部、非晶領域が存在することが知られている。この構造的特徴もまたセルロースの特性に影響するため、そのセルロースに占める割合や分布様式はセルロースを利用する際に重要な因子となり得る。以上のように、セルロースにおける結晶領域や非晶領域の存在は、セルロースを産業的に利用する際に重要であるにも関わらず、その結晶・非晶領域の割合や分布状況を把握することは容易ではない。そこで本課題では、研究代表者のグループが見出した結晶性セルロースのみに特異的に吸着するセルロース結合ドメイン(新規CBD)を利用して、セルロースの結晶・非晶領域の割合や分布をモニタリングするための新技術を開発するためのプラットフォーム構築を目指し、新規CBDの特性解析を進めてきた。 本年度は新規CBDを蛍光タンパク質に融合させた組換え体を用いて、木材組織に吸着させ、その分布を蛍光顕微鏡および共焦点レーザー顕微鏡で観察することで、新規CBDの結合特性を調査した。さらに、アミノ酸配列から吸着に重要であると予想されるアミノ酸残基の点変異導入体を酵母菌を用いた異種宿主発現系を用いて作出し、その特性調査を行い、結合に重要なアミノ酸残基の特定を行った。三次元構造を明らかにするため、昨年度は結晶構造解析を試みたが、それが困難であったことから、NMRを用いた解析を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概要欄に記載の通り、本年度は新規CBDを蛍光タンパク質に融合させた組換え体を用いて、木材組織に吸着させ、その分布様式を蛍光顕微鏡および共焦点レーザー顕微鏡で観察することで、新規CBDの結合特性を調査した。同様の解析を既知のCBD(CBM1)でも実施し、両者の結果を比較した。その結果、新規CBDは、従来よく知られているセルロース結合ドメインであるCBM1とは異なる挙動を示す可能性が見出された。また、三次元構造を明らかにするため、昨年度までに結晶構造解析を試みてきたが、それが困難であったことから、NMRを用いた解析を試みたが、その構造の解明には至らなかった。しかしながら、アミノ酸配列の相同性に基づく三次元構造モデリングの情報から、吸着に重要であると予想されるアミノ酸残基を11残基ピックアップし、それらをそれぞれアラニンに置換した点変異導入体を作成し吸着特性を調査したところ、いくつかの変異体で吸着特性の明確な減少が観察された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、X線回折による結晶構造解析およびNMRを用いた構造解析を試みてきたが、現時点でその構造の解明には至っていない。そこで次年度は、蛍光タンパク質と新規CBD間のリンカー領域を可能な限り短くした組換え融合タンパク質を発現させることで、タンパク質の安定性を増大させ、これを用いてX線回折による結晶構造解析を継続することにより、結合ドメインの立体構造を明らかにする予定である。また、点変異導入体の解析を進め、吸着に重要であると予想されるアミノ酸残基を特定し、新規CBDのセルロース結合メカニズムを明らかにする。さらに、新規CBDを利用してセルロースの結晶・非晶領域を特定することを目指す。
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