研究課題/領域番号 |
18H02253
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
高橋 憲司 金沢大学, 生命理工学系, 教授 (00216714)
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研究分担者 |
廣瀬 大祐 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 博士研究員 (60806686)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | イオン液体 / バイオマス / 連続変換プロセス / 二軸混練 / セルロース |
研究実績の概要 |
1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート(EmimOAc) をセルロースエステル合成に用いた際に、アニオン成分が目的物上に混入する副反応が生じることが明らかとなり、同現象を抑制するために既存のイオン液体を基にした分子設計の最適化を行った。セルロースの溶解性とビニルエステルをアシル化剤として用いるための触媒機能を保ったまま、上述の副反応経路を抑制するためには、芳香族系カルボキシラートをアニオン種として用いることが効果的であることを見出し、置換基効果の最適化を行うことで、新規カルボン酸系イオン液体Emim アニセートを開発した。これを用いることにより副反応を主反応の100分の1程度に大幅に抑制することができるようになった。さらに、汎用溶媒中では反応性を殆ど示さないアルキルエステルを用いた際にも、イオン液体EmimOAcを用いた際に効率的に反応が進行することを予備的に見出した。 一方で、二軸混錬機内での検討については、予備混合したセルロースとイオン液体EmimOAcと共溶媒の混合物を、シリンジポンプを用いて二軸混錬機に定量供給したところに、別の投入口からビニルエステルを定量送液することで、有限かつ事前準備が必要ではあるが目的のセルロースエステルを連続合成することに成功した。当初、一定の反応時間の確保のためにループを導入し滞留時間を延長する必要があると計画していたが、イオン液体の高い溶解性が可能にする超濃厚条件とその触媒機能によって、ループを用いること無く、高置換度のセルロースエステルを得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に予定したデザイン型イオン液体開発においては、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム(EmimOAc) の骨格を元に複数のイオン液体を合成し評価することで、アニオン構造とセルロースの溶解性およびエステル化反応に対する触媒機能との関係性を明らかにすることができた。さらに、二軸混錬機内での検討についても、当初予定していた予備混合したセルロースとイオン液体と共溶媒の混合物を、シリンジポンプを用いて二軸混錬機に定量供給し、別の投入口からビニルエステルを供給する手法を用いることで、有限かつ事前準備が必要ではあるが目的のセルロースエステルを連続合成することに成功した。これにより、予備的にではあるが、二軸混錬機内での化学変換を完了させるまでに必要な滞留時間や試薬の投入速度などのパラメータに関する重要な知見を得ることができた。研究開始段階で新たに明らかになった、セルロースエステル合成を行う際に、イオン液体のアニオン成分が目的物上に混入する副反応が生じる問題についても当初予定していたイオン液体の構成成分の機能解明を行うことで、年度内に殆ど解決し、さらに知見を深めることができたことなどを含め、研究計画に従った順調な進捗状況であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
イオン液体開発においては、前年度に生じた副反応の問題を抑制するイオン液体が同年度内に開発できたものの、反応速度の面では向上の余地が残る。本年度ではイオン液体開発を副反応が原理的に生じないと考えられる非カルボン酸系塩基性イオン液体にまで拡張し、セルロースを含めたバイオマスの化学変換に適したイオン液体の開発を進める。非カルボン酸系イオン液体の構造が反応速度やバイオマスの溶解性に与える影響を明らかにし、二軸混錬機内での迅速な化学変換を可能にする。 一方、二軸混錬機内での検討について、本年度はセルロース、溶媒、ビニルエステルを事前に混合することなく、それぞれ独立して投入することで、無制限かつ連続的にセルロースエステルを合成できる反応プロセスの構築を行う。事前に装置外で混合する場合と異なり、ビニルエステルと接触するまでの限られた時間内にセルロースとイオン液体の混合および溶解を完了させる必要がある。すなわち、事前に混合する実験系では材料の投入から排出までを全て反応時間として利用することが可能であったが、本年度の系では溶解から反応までを完了させる必要があるため、前年度以上に溶解および反応速度が求められる。そのため、前年度に得られた予備的な混練条件を基に、反応温度やスクリューの回転速度、スクリューエレメントの構成の最適化を進めることで、二軸混練機の条件最適化を行う。特に、イオン液体と共溶媒の混合割合や溶液濃度については、二軸混練機を用いることでバッチ反応と比較にならないほど高粘度の混合物を扱うことができることが明らかになったため、超濃厚条件の適用による溶媒量の削減や反応速度の向上検討を進める。
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