研究課題/領域番号 |
18H02258
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
黒田 克史 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 (90399379)
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研究分担者 |
半 智史 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (40627709)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 放射方向移動 / ミネラル / セシウム / 蛍光物質 / 柔細胞 / 立木凍結固定 / アポプラスト / シンプラスト |
研究実績の概要 |
樹木は根から吸収したミネラルや葉で合成された光合成産物を樹木の縦=樹軸方向と横=放射・接線方向の連続した移動により樹体の各器官へ配分し成長する。これらの移動のうち、樹幹放射方向(師部-形成層-辺材-心材)の物質移動機構の解明のために、本課題では、立木の幹内部で起こる樹幹放射方向の物質移動の実態を細胞レベルの可視化手法により明らかにすることを目的としている。 【課題1】安定同位体セシウムをトレーサーとして用いる。安定同位体セシウムを樹幹に注入し、樹幹を立木凍結固定してから伐採する方法により試料を採取した。この凍結試料についてクライオSEM/EDXでセシウムの移動した部位を組織レベルで明らかにした。また、クライオTEM/EDXを用いた解析法を検討し、注入したセシウム分布をクライオSEM/EDXより高解像度で解析可能なことを明らかにした。一方で、可視化技術の確立のために試料作製方法の改良等の今後の課題も明らかになった。さらに、ヨーロッパシンクロトロンのシンクロトロンマイクロ蛍光X線分析装置を用いた凍結試料のセシウム分布解析を行い、元素マッピング像を得ることが出来た。樹幹辺材に注入したセシウムが辺材ではカリウムと極めて似た分布を示すこと等、これまでの分析では得られなかった成果を得ることが出来た。 【課題2】蛍光試薬をトレーサーとして用いる。生きている樹木組織内の物質移動の実態を明らかにするために、スギやケヤキの枝に蛍光試薬を注入し光学・蛍光顕微鏡を用いて解析した。スルホローダミンBが道管などのアポプラスト(細胞壁を含む細胞外空間)を、 5,6-カルボキシフルオレセインジアセテートが柔細胞などのシンプラスト(細胞内空間)を強く染色することが分かり、輸送部位を区別した物質移動部位の解析が可能なことを示した。 以上の成果を論文や学会発表により公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
立木凍結固定伐採法とクライオSEM/EDX法により、樹幹に注入したセシウムの移動部位の解析を計画通り行うことが出来、成果の一部を論文および学会発表として公表した。新しい可視化手法として計画したクライオTEM/EDXによる解析は、当初予定していた国内機関の装置が使用できなくなったが、国際共同研究としてフィンランドのアールト大学の装置を使用することができた。幸運なことに、アールト大学の担当者は凍結植物試料の準超薄切片作成の高い技術と経験があり、限られた時間の中でも計画通りに進展した。さらに、シンクロトロンマイクロ蛍光X線分析装置を用いた凍結試料のセシウム分布解析では、クライオSEM/EDXで困難な元素マッピングのデータを得ることが出来た。また、蛍光物質の移動をライブで可視化するための注入と観察方法について、既報で提案されている手法を元に針葉樹と広葉樹枝を用いた解析方法の適用に成功し、学会発表として公表した。 以上のように1年目に計画した内容をほぼ達成できていることから、本課題は順調に進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本課題で重要なことは、立木(生きている樹木)の内部で起きている現象をできるだけ再現する工夫をして、樹幹放射方向の物質移動機構を解明することである。課題1については、安定同位体セシウムを樹幹に注入し、樹幹を立木凍結固定により採取した試料を用いて、クライオSEM/EDX解析をメインの手法として継続するとともに、クライオTEM/EDX等の新規手法の開発・改良や新しい試料作製方法の導入等により、ミネラルの放射方向移動の解析を推進させる。課題2についてはアポプラストとシンプラストを区別した解析を高度化させ、ライブ可視化手法を確立し、蛍光物質移動の解析を推進させる。また、枝等を用いたライブ手法と樹幹の立木凍結固定試料を用いた可視化手法を直接的に比較するための試料解析方法の検討も行う。
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