研究課題
植物の細胞壁は、強度の必要な組織に肥厚する二次細胞壁と、全ての細胞に形成され可塑性の高い一次細胞壁とに大別される。我々は繊維細胞において二次細胞壁をまったく形成しないシロイヌナズナnst1 nst3二重変異体に、新しく同定したERF転写因子を発現させることにより、一次細胞壁に類似した組成の細胞壁を二次細胞壁様に肥厚させることに成功した。さらに、この植物に追加でMYB58転写因子を発現させることによってリグニンを追加沈着させることに成功した。また、別の新しい転写因子LXFはnst1 nst3二重変異体にキシランとリグニンを沈着させられることを見出した。つまりわれわれは「肥厚した一次壁様二次壁のみ」「同細胞壁+リグニン」「同細胞壁+リグニン+キシラン」という新奇な細胞壁を植物に形成させることができるようになりつつある。本研究はこれらの細胞壁形質を解析することで細胞壁の各構成要素の存在意義を明らかにすることを目的としている。本年度は「肥厚した一次壁様二次壁のみ」、「同細胞壁+リグニン」を形成させた植物において、その力学的強度を詳細に検討した結果、肥厚した一次壁様二次壁にリグニンを追加すると、力学的強度(stiffness、ヤング率)が明らかに向上するものの通常の野生株の半分程度にしかならないことがわかった。このことはヘミセルロース成分の重要性を示唆するものである。一方で、肥厚した一次壁様二次壁にリグニンとキシランを追加したと思しきものについて、その切片観察などを慎重に実施したところ、傷害時に応答して作られるようなリグニンができていると解釈される結果になり、我々が求めていたような植物とは異なることがわかった。このようなことからあらためてヘミセルロース成分(キシラン)の生合成を単独で制御しうる転写因子を発見すべくインフォマティクス的な解析を行い、候補因子を絞り込んだ。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り作成した組換え植物(「肥厚した一次壁様二次壁のみ」、「同細胞壁+リグニン」を形成する植物)の細胞壁形質について分析を進め、ある程度想定通りの結果を得ているため。しかし、一方で、一部(「肥厚した一次壁様二次壁のみ+リグニン+キシラン」を形成する植物)については当初想定していた仮定とは異なることを示唆する結果となっており、その部分に関しては新たな因子の同定などが必要になると考えている。このため来年度以降計画に遅れが出ることが懸念される。
透過電顕、蛍光顕微鏡、糖組成分析、セルラーゼ糖化試験による細胞壁の基本解析を継続する。これまでに撮影している透過電顕像が必ずしも明瞭ではない部分があるので、再度資料調製、撮影を行ってより明瞭な写真を取得する。また、蛍光顕微鏡観察についてもモノリグノール、フェノリクス化合物をウオッシュアウトするような処理を行ってもリグニン由来の自家蛍光が観察されるかどうかなどを再試験により確認し、想定通り重合したリグニンが沈着していることを確認する。また、2DNMRなどを駆使して、リグニンと一次細胞壁様二次細胞壁がどのように結合しているかを明らかにする。さらにはセルロースの重合度、結晶化度、ミクロフィブリルアングルについても詳細な分析を行う。加えてあらためてキシランの生合成を制御する転写因子を探索し、通常の二次細胞壁に沈着するようなヘミセルロース成分がどのようなメカニズムで合成されるのかを遺伝子レベルで明らかにするとともに、当初の想定に合った「肥厚した一次壁様二次壁のみ+リグニン+キシラン」を形成する植物の作成を狙う。
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Nature Plants
巻: 4 ページ: 777-783
10.1038/s41477-018-0278-7