研究課題/領域番号 |
18H02259
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
光田 展隆 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究グループ長 (80450667)
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研究分担者 |
梶田 真也 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (40323753)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 細胞壁 / 木質 / リグニン / セルロース / 遺伝子改変 |
研究実績の概要 |
植物の細胞壁は、強度の必要な組織に肥厚する二次細胞壁と、全ての細胞に形成され可塑性の高い一次細胞壁とに大別される。我々は繊維細胞において二次細胞壁を形成しないシロイヌナズナnst1 nst3二重変異体に、ERF転写因子を発現させることにより、一次細胞壁に類似した組成の細胞壁を二次壁様に肥厚させることに成功した。さらに、この植物に追加でMYB58転写因子を発現させてリグニンを追加沈着させることに成功した。また、別の新しい転写因子LXFは同二重変異体にキシランとリグニンを沈着させられることを見出した。一昨年度、リグニンとキシランを追加できると考えていたLXF転写因子についてその効果を詳細に調べたところ、傷害応答リグニンができており当初の狙い通りの植物を作れないことがわかった。このようなことから再度キシランの生合成を制御する転写因子を探索し、別の転写因子KXFを候補としてた。しかし、同転写因子を研究していた海外の研究者との意見交換から、この転写因子が想定とは逆の働きをする抑制因子であるとわかった。このようなことからさらに別の転写因子について実験を実施している。そこで、とりあえずnst1 nst3二重変異体に、ERFおよびMYB58転写因子を同時発現させた植物について分析を進め、モノリグノール、フェノリクス化合物を洗浄するような処理を行ってもリグニン由来の自家蛍光や染色が観察されることを確認できた。また、同時発現させた植物では細胞壁肥厚が十分でないという問題があったが、酵母の転写因子をまず発現させて、その下流としてERFやMYB転写因子を発現させるという二段階発現システムなどを利用することで十分に肥厚した一次細胞壁用二次細胞壁にリグニンを沈着させた細胞壁を形成させることに成功し、今後の解析のための材料として供給できるめどが立った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定通り作成した組換え植物(「肥厚した一次壁様二次壁のみ」、「同細胞壁+リグニン」を形成する植物)の細胞壁形質について分析を進め、ある程度想定通りの結果を得た。さらに二段階発現システムを活用するなどして、NMR解析や、セルロースの結晶化度分析、重合度分析、電子顕微鏡解析などを深化させられるめどが立った。しかし、一方で、「肥厚した一次壁様二次壁のみ+リグニン+キシラン」を形成する植物については当初想定していた仮定とは異なることを示唆する結果となっており、その部分については新たな因子の同定などが必要になっている。
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今後の研究の推進方策 |
二段階発現システム等を活用して新たに作成した「十分に肥厚した一次壁様二次壁+リグニン」を形成している植物について透過電顕、NMR解析、セルロース結晶化度分析、重合度分析などを行い、リグニンの沈着がセルロースミクロフィブリルに与える影響について解析する。NMR解析については2DNMRなどを駆使して、リグニンと一次細胞壁様二次細胞壁がどのように結合しているかを明らかにする。加えてあらためてキシランの生合成を制御する転写因子を探索し、通常の二次細胞壁に沈着するようなヘミセルロース成分がどのようなメカニズムで合成されるのかを遺伝子レベルで明らかにするとともに、当初の想定に合った「肥厚した一次壁様二次壁のみ+リグ ニン+キシラン」を形成する植物の作成を狙う。
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