研究課題/領域番号 |
18H02260
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
高木 力 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (80319657)
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研究分担者 |
阿部 孝司 近畿大学, 理工学部, 准教授 (90367441)
鳥澤 眞介 近畿大学, 農学部, 講師 (80399097)
竹原 幸生 近畿大学, 理工学部, 教授 (50216933)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 養殖魚 / 生産管理 / 画像解析 / 情報科学 |
研究実績の概要 |
生産物が水面下にある魚類養殖では,生産管理や成育状態を日常的に把握することが困難となっている。そのため,きめ細かい生産管理や効果的な養殖技術開発のためにICT導入による高度化が強く求められている。本研究では魚類養殖の成育・生産を効率化するシステムの構築を目指して,非接触で生簀内養殖魚の収容尾数や,成育状態を計測する基盤技術開発に取り組む。 【個体数計数システムの開発】養殖クロマグロを対象として遊泳する養殖魚魚群をワイドコンバージョンレンズを装着した小型民生品カメラを用いて20m直径の大型生簀内のほぼ全景を捉えることができた。セマンティックセグメンテーション(画像内の全画素にラベルやカテゴリを関連付ける深層学習アルゴリズム)を適用して個体画像を識別したところ,およそ5000枚の教師画像データデータセットを個体画像と背景画像の比率7:3で学習させることにより80%の検出性能を出すことができたが,システムのロバスト性を向上させるためには,個体を移動追跡するアルゴリズムを見直し,実海域での個体同士の重なりや懸濁物等のノイズ等の識別を確実化することが求められことがわかった。 【行動計測による養殖魚状態評価技術開発】個体計数システムの開発では,連続する画像間での同一個体の移動ベクトルをKC法を適用することにより推定することが可能となる。このベクトルの状態を分析することにより,養殖環境や適切な給餌量を評価することが実現できる可能性がある。そこで,連続する移動ベクトルのノルム差D,交差角θ,渦度に類似した指標ωの評価指標を算出し,養成環境の違いがこれらの指標に差をもたらすか分析した。給餌時と非給餌時では,θの値で有意な差が確認され,台風接近による風浪の激しい環境では,ノルム差やωの値に有意な差が現れた。養殖魚の飽食度合いや,波浪によるストレス度合をこれらの指標により評価できることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【個体数計数システムの開発】本システムは,映像内の魚群から個体画像を識別してラベリングし,その個体画像から個体移動ベクトルを抽出することで個体計数が行われる。個体識別の部分は昨年度よりセマンティックセグメンテーションの一つであるSegnetを応用することにより一定の成果を得られたが,さらに個体画像抽出能力が高いDeepLab v3+の適用によりラベリング性能の向上が図られた。一方,個体識別部の調整のみで個体計数性能を向上させるには限界があることが見え始め,システム性能向上を図る上で個体の移動追跡部のアルゴリズムを見直す契機が得られることとなった。 【行動計測による養殖魚状態評価技術開発】個体画像抽出能力が高いDeepLab v3+の適用によりラベリング性能の向上が図られたことにより,さらに安定して個体の移動ベクトル推定が行えるようになった。こうした状況の中で,様々な環境下における多数のベクトル情報から,ベクトルの経時変化をベクトルノルム差や交叉角,渦度などの指標で評価可能とした。これらはベクトル情報を比較的単純な一次処理で算出できるが,さらにベクトルの出現確率を推定した情報量を算出し,これを評価指標とする可能性もでてきた。多様な解析を通じて遊泳映像情報から養殖魚状態評価が実現できる可能性がある。 新型コロナ感染症により当該年度に予定していた実験を計画通りに進められなかった状況でもあったが,一定の成果は得られ,これまでに取得された実海域実験映像から検証を進める状況でもあり,概ね順調に進捗していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
クロマグロ養殖場において,養殖生簀の規模を変化させて撮影実験が行われ,適切な施設規模とカメラ設定が決定された。これにより,薄暮時,昼間時,高波浪時等の多様な撮影環境下でのクロマグロ遊泳魚群映像の取得が行われ,画像データが蓄積されている。養殖魚状態評価技術開発のために,個体移動ベクトル情報を一次処理した指標から,養殖給餌時等の行動の差異を捉えることを試みたが,今後はさらに高度な処理を施して養殖魚の行動状態評価をより明確化できるようにしたい。今後は撮影画像から取得される時間的に連続する個体移動ベクトルの集合から二次元正規分布を仮定した確率密度を用いて情報量を算出し,これを指標として様々な環境下での養殖魚魚群の行動評価を継続して行っていく予定である。 これまで,個体の移動ベクトルは,ラベリングされた抽出個体画像の重心位置算出結果に対してKC法を適用して推定されてきたが,実海域の養殖生簀内を対象とする場合は個体の遊泳深度に応じて撮影画像上に投影される個体の画素数は大きく変化する。そこで,抽出された個体領域情報を個体毎に重心点ではなく集合として捉え,KC法を適用し,移動ベクトル推定能力の向上を図る。 個体計数システムを実海域で実装した際は,照度と濁度は撮影画像の品質に大きな影響を与えると予想される。個体数検出性能と照度または濁度パラメータの間にどのような特性があるのか,多数の撮影画像データセットから統計的に推定し,最適な撮影環境を予測する予定である。
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