研究実績の概要 |
昨年度作成した化学・生物モデルでは、干潟への海水・地下水の流入・流出プロセスを潮汐データを用いて導入した。また、底泥中のFe, P, S, Mn, Oの酸化還元反応系のモデル化を行うことにより、干潟での物質循環を忠実に再現できた。今年度は、このモデルを3次元流動モデルに統合させる作業を進めたが、研究代表者の体調不良に加え、コロナ禍での状況において、研究者間のコミュニケーションが十分に取れず、納得できる結果までに至らなかった。 化学・生物モデルによる現場の生物間の食物連鎖構造及び物質循環の計算結果は精度良く再現していたので、これを用いて、感度解析を行うことにより、固形肥料の単位当たり設置数について割り出した。結果、2-3平米当たり1個の肥料が必要という計算となり、スケールを拡げて例えば1 haの干潟に対して本肥料を設置する場合、3,000-4,000個必要と計算された。このことは、1日2回の干満がある干潟での海水交換が想像以上に大きいことが原因である。 干潟には、陸域からの淡水による湧水があることが、ピエゾメータおよびラドンの解析から明らかとなっており、地下からの栄養塩負荷として重要なフラックスとなっている。現状、モデルには概算値を入れた状態での計算となっているが、このフラックスが自然干潟での生物資源を育むうえで、極めて重要であることが理解できた。今回、実験対象とした場所は人工干潟であり、アンコ材としてシルト質の浚渫泥が使われている。このような微細な粒子の泥では地下水の浸透が抑制されるため、アサリの生長にはあまり好ましくないと判断された。 そこで、急遽、廿日市市大野町の砂質干潟での実験を行った。3か月の実験であったが、施肥区のアサリは無施肥区に比べて、統計的に有意に重量が増加したことを確認した。海水交換、地下水などを入れた数値計算は、今後の課題として残された。
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