水産資源管理を行う上で、対象種の生息域や移動経路に関する情報は不可欠である。深海に生息する魚類の多くは重要な水産資源として利用されているものの、その移動・回遊に関する知見は不明な点が多い。これは、これまで水産資源の位置推定は水産資源が経験する日出・日入時刻、日長をもとに滞在位置を推定する方法が主たるものであり、光の届かない深海域における生物の位置を把握する手段が確立されていないことに起因する。本研究では地磁気と重力というこれまで用いられてこなかったセンサ情報を用いて、今まで成しえなかった「深海性生物の位置測位」を実現し、それを応用して深海性水産魚種の回遊生態解明に資することを目的とする。 令和3年度では、前年度までに実施したフィールド実験で得たデータを基に、地磁気・重力情報を用いた位置測位手法の評価・改善を行った。具体的には、鹿児島県沖永良部島で産卵するアカウミガメに地磁気・重力記録計とGPS記録計を装着し、GPS情報を真値として地磁気・重力情報による位置推定法の正確度の改善を行った。その結果、一回一回の測位では重力(3軸加速度)によるアカウミガメの姿勢角測定のズレにより、推定した位置にもズレが見られたが、数時間の3軸加速度(重力)データの重心を取ることで、真値との位置のズレを最小化できることが明らかになった。次いで、深海性魚類のモデルとしてブリを対象とし、地磁気・重力による位置推定手法の有効性を評価する実証実験を企画していたが、コロナ禍の影響を受け、実験の実施には至らなかった。
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