研究課題/領域番号 |
18H02270
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
山下 洋 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 西海区水産研究所, 研究員 (00583147)
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研究分担者 |
酒井 隆一 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (20265721)
神保 充 北里大学, 海洋生命科学部, 准教授 (10291650)
新里 宙也 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (70524726)
鈴木 豪 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 西海区水産研究所, 主任研究員 (30533319)
福岡 弘紀 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 西海区水産研究所, 主任研究員 (30416044)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 褐虫藻 / サンゴ礁生態系 / 食物網ルート / 海洋生態 / 生物圏現象 |
研究実績の概要 |
本研究ではサンゴなどの共生藻として知られる褐虫藻の代謝産物を指標としてサンゴ礁生態系の食物網に新たなルートを提案しようとするものである。また,その過程で褐虫藻とサンゴ等宿主動物の間で行われる物質のやり取りについてもより詳細な知見の蓄積が期待される。本年度はまず、5株の褐虫藻培養株を大量に培養し、代謝産物の網羅的な取得を行った。培養株の内訳は、サンゴから単離したもの2株とシャコガイから単離したもの2株、加えて動物とは共生しない自由生活型のもの1株である。代謝産物の詳細な解析は現在も進行中であるが,大まかな解析結果としては,自由生活型褐虫藻は他の培養株と比べて特異な代謝産物プロファイルを示した。また,新規化合物を含む褐虫藻に特徴的な物質も複数得られた。予備的にサンゴ礁海域の動物プランクトンの持つ物質のプロファイルと比較したところ、褐虫藻由来が疑われる物質がいくつか検出されたため、来年度はさらに詳細な実験と解析を実施する。物質の生合成経路の確認に利用する褐虫藻のタンパク質解析を実施したが,褐虫藻ゲノムから推定されたタンパク質の一部しか検出できなかった。褐虫藻は動物から離し,単独で培養すると日周的に形態変化を行うので,より多くのタンパク質を検出するためには形態変化を考慮した試料の採取と解析が必要であった。サンゴ幼生を用いた遺伝子解析の結果,特定の褐虫藻が共生した時のみ発現量が変化する遺伝子を複数同定することに成功した。また、来年度以降に実施予定のサンゴ礁海域の動物プランクトンの代謝産物解析にむけ,動物プランクトンの採取場所と対象種を決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度実施予定であった褐虫藻培養株を用いた代謝産物解析は順調に進んでいるため。代謝産物の生合成経路の確認においては,本年度はゲノムから推定されたタンパク質の一部しか検出できていないが,今後試料を増やすことでより多くのタンパク質が検出可能だと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き褐虫藻培養株をLC-MSおよび1HNMR分析に供して代謝産物プロファイルの網羅的な取得を行い,褐虫藻特異的なマーカー物質の探索を実施する。これらが新規化合物である場合はNMRなどの機器分析を用いて構造決定を行う。また,昨年度の結果を踏まえて,より多くの褐虫藻培養株の解析を実施し,褐虫藻特異的マーカーの探索を行う。マーカー候補の物質や関連する褐虫藻に特徴的な物質の生合成経路を遺伝子・タンパク質解析の両面から確認するが,この時,両解析に使用する試料を同じロットから採取して,精度の向上を目指す。並行して野外のサンゴやシャコガイ等褐虫藻を共生させる動物の解析を実施する。これら宿主動物の組織及び体内の褐虫藻それぞれの代謝産物プロファイルの網羅的な取得と,それら物質の生合成経路の推定を行う。また,共生時にのみ生合成される物質が存在する可能性もあるため,人工的にサンゴ-褐虫藻共生体を作出し,共生状態・非共生状態の褐虫藻とサンゴの物質プロファイルも比較する。さらに本年度は実際にサンゴ礁海域の動物プランクトンに褐虫藻由来物質が蓄積しているかどうかを把握する実験にも着手する。サンゴ礁海域で採取した動物プランクトンに予備的に褐虫藻培養株を捕食させ,褐虫藻由来物質が動物プランクトンに蓄積するかどうか確認する。また,サンゴが多い場所や少ない場所など様々な場所から動物プランクトンを採取し,サイズや種類ごとに分画して,上記同様の物質解析を行い,動物プランクトンへの褐虫藻由来物質の移行を把握する。
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