研究課題/領域番号 |
18H02274
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
細川 雅史 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (10241374)
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研究分担者 |
岡松 優子 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (90527178)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 海洋性カロテノイド / アポカロテノイド / パラセントロン / 生活習慣病予防 / 抗炎症作用 / フコキサンチン開裂物 |
研究実績の概要 |
(1)海洋性カロテノイドのフコキサンチンを経口投与した非アルコール性脂肪肝炎(NASH)誘導マウスでは、肝臓の脂肪蓄積に加え炎症性因子のmRNA発現の抑制が見られた。さらに、線維化進行に関わる因子の発現抑制も観察された。これらの成果は、フコキサンチンの新たな健康機能としてNASH予防効果を示唆するものである。また、NASH誘導マウスの肝臓においても、フコキサンチン開裂物のパラセントロンが検出された。 (2)パラセントロンに加え、フコキサンチンの部分構造をもつ開裂物のapo-10’-fucoxanthinalやC28-allenic ketoneがマクロファージ様RAW264.7細胞に対して炎症性サイトカインの産生を顕著に抑制し、作用機構としてMAPキナーゼカスケードおよびIkBのリン酸化抑制が推察された。 (3)パラセントロンまたはapo-10’-fucoxanthinalで前処理した3T3-L1脂肪細胞では、RAW264.7細胞との共培養による炎症性サイトカインやケモカインのmRNA発現が有意に抑制され、フコキサンチン開裂物の脂肪細胞とマクロファージ間の相互作用による炎症や遊走抑制作用が推察された。 (4)アスタキサンチン開裂物のapo8’-astaxanthinalは、アスタキサンチンと比較してRAW264.7細胞に対するiNOSのmRNA発現を強く抑制し、アポアスタキサンチンの優れた抗炎症作用が示唆された。 (5)褐色脂肪組織の活性化を介した抗肥満作用を明らかにするバイオマーカーとして、血中エクソソームに含まれるマイクロRNA(miRNA)に着目し網羅的解析を行なった。PET-CTによる褐色脂肪機能の測定により被験者を褐色脂肪活性が高い群と低い群に分け、血中のエクソソームmiRNA量を解析したところ、miR-122が褐色脂肪活性と逆相関を示すことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フコキサンチンの新たな生活習慣病予防機能としてNASHに対する予防効果を示した。作用機構として、肝臓での慢性炎症の抑制に関わる炎症性因子および線維化因子の発現抑制が推察された。NASHは進行すると、肝硬変や肝がんを発症する可能性があることから、フコキサンチンによる予防効果の解明は意義深い成果である。 フコキサンチンの生体内開裂物として同定したパラセントロンに加え、フコキサンチンの部分構造をもつapo-10’-fucoxanthinalやC28-allenic ketone等を含めて、活性化マクロファージに対する抗炎症作用の比較検討を行った。その結果、アレン結合やエポキシ基の重要性に加え、イソプレン鎖長の影響が認められた。そのため、フコキサンチン開裂物を含めた新たな代謝物の同定と抗炎症活性との関連性についてさらに調べる計画である。以上の成果については論文投稿すべく準備を進めている。 フコキサンチン以外のカロテノイド開裂物についても、活性化マクロファージに対する抗炎症作用を中心に機能性評価を進めてきた。アスタキサンチンでは、開裂物による炎症因子のmRNA発現抑制効果がより顕著であることを確認しており、その作用機構の解明が期待される。また、多くの生活習慣病の発症基盤である慢性炎症に対してフコキサンチン開裂物がマクロファージと脂肪細胞の相互作用を制御することを見出していることから、他のカロテノイド開裂物についても検討を加え機能特性を明らかにする。 一方、肥満予防に重要な褐色脂肪組織の活性化を示すバイオマーカーとして、血中エクソソームに含まれるmiR-122の逆相関を見出した。このようなバイオマーカーは機能性食品のヒトへの応用をはかるうえで重要な指標として期待されるものであり、極めて意義深い成果である。 以上、現在までの進捗状況から、当初の計画通りおおむね順調に進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、海洋性カロテノイドの新規代謝物を同定し、臓器や細胞蓄積の特徴を明らかにするとともに、生活習慣病の発症に関わる臓器・細胞間相互作用に対するカロテノイド代謝物の新規制御機構を解明することである。これまでの研究で、カロテノイドの開裂によって生成したアポカロテノイドが炎症因子の産生抑制作用などにおいて優れた抑制活性を示すことを見出している。令和2年度はその作用機構の解明において重要な知見となるアポカロテノイドの細胞内の局在性について分析を行う。特に、フコキサンチンの生活習慣病予防効果として、内臓脂肪の蓄積抑制効果や血糖値改善効果、さらにはNASHモデルにおける肝臓脂質の蓄積抑制効果を明らかにしてきた。それらの機能発現に関わるミトコンドリア活性への影響とカロテノイド代謝物の移行について解析を進める。 一方、フコキサンチン開裂物は活性化マクロファージに対し炎症因子のmRNA発現を強く抑制するとともに、抗酸化酵素の発現を誘導した。フコキサンチノールではほとんどみられない作用であり、開裂物に特徴的な作用機構の可能性が考えられた。そのため、抗酸化酵素及びその転写制御因子の活性化を調べ、新たな作用機構の解明をアポカロテノイドの構造と関連付けて検討する。 令和2年度は本研究課題の最終年度であることから、研究成果を投稿論文等で積極的に発表するとともに、海洋性カロテノイドの生活習慣病に対する予防機構を明らかにし、健康増進に向けた水産物利用のための基礎知見の集積を目指す。
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