研究課題/領域番号 |
18H02275
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
井尻 成保 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (90425421)
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研究分担者 |
足立 伸次 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (40231930)
柴田 安司 帝京科学大学, 生命環境学部, 准教授 (80446260)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 20β-HSD / Hsd17β12L / サクラマス / ウナギ / メダカ / チョウザメ / ゼブラフィッシュ |
研究実績の概要 |
1)ティラピア、メダカのHsd17β12L:ティラピア、メダカのHsd17β12L cDNAをクローニングし、HEK293T細胞に導入したところ、両酵素とも添加した17α-ヒドロキシプロゲステロン(17OHP)を17α,20β-ジヒドロキシ-4-プレグネン-3-オン(DHP)に転換する強い20β-HSD活性を示した。両種ともに、卵濾胞培養では、黄体形成ホルモン(LH)またはサケ下垂体抽出物(SPE)の刺激によりDHPを産生するとともにHsd17β12L mRNAの発現が誘導された。メダカでは血中DHP量の変化と卵巣中Hsd17β12L mRNA発現量がよく一致したが、ティラピア卵濾胞におけるDHP産生量は比較的少量であった。 2)チョウザメ類の最終成熟誘起ホルモン(MIH):アムールチョウザメの卵成熟前と排卵後まで経時的に血液を採取し、血中ステロイドプロファイルをLC/MS/MSで解析した。排卵前にDHP、排卵後に21-ヒドロキシ-DHP(20β-S)が上昇したものの高い値ではなかった。未同定ステロイドのうち排卵前に上昇するものもあったが、いずれも高い値を示すものはなかった。 3)Hsd17β12L遺伝子ノックアウトの作製:Hsd17β12L遺伝子ノックアウトメダカは変異導入ヘテロ個体を作製した。ゼブラフィッシュでは変異導入個体はまだ確認されていない。 4)Hsd17β12L遺伝子発現調節機構:メダカのHsd17β12L遺伝子上流域5kbをクローニングした。この下流にルシフェラーゼ遺伝子を組み込み、HEK293T細胞に導入し、LH作用を疑似するフォルスコリンを添加して培養した。フォルスコリンによるルシフェラーゼ誘導刺激は認められなかったことから、LHの刺激は直接Hsd17β12L遺伝子の転写を活性化するのではないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)ティラピア、メダカのHsd17β12L:メダカではサクラマス同様、卵成熟前にHsd17β12L mRNAの発現量が上昇することでDHPが産生され、卵成熟・排卵が誘起されることが強く示唆された。ティラピアでは、卵濾胞のDHP産生量が高くはなく、DHP以外がMIHである可能性が新たに考えられた。次年度以降、ティラピアのMIHの見直しを図る必要がある。ティラピアでは、2週間の産卵周期を通した経時的な血液、卵巣のサンプリングができていないため、まだin vivoでの解析が進んでいない。メダカでの解析は完了し、ティラピアでもおおむね順調に進捗している。 2)チョウザメ類のMIH:DHP、20β-Sおよび未同定ステロイドの血中量が排卵前後で上昇したものの、MIHと考えられるような顕著な増加は見られなかった。DHPがチョウザメ類のMIHである可能性は否定できないものの、まだいずれのステロイドもMIHである可能性は残されており、確定はできていない。 3)Hsd17β12L遺伝子ノックアウトの作製:メダカのヘテロ変異個体は作製され、性成熟が確認されているため、近くF2ホモ個体の作出が見込まれる。ゼブラフィッシュではまだ遺伝子変異個体が確認されていない。メダカは順調に進捗しているがゼブラフィッシュではやや遅れている。 4)Hsd17β12L遺伝子発現調節機構:LHが直接メダカHsd17β12L遺伝子の転写活性化を刺激しないことが示唆され、LH刺激とHsd17β12L遺伝子発現の間には未知因子が介在していることが確からしくなった。直接的な刺激があれば、Hsd17β12L遺伝子発現機構は単純に説明できるが、単純な機構ではないことが分かった。この結果から、未知因子を同定し、LH刺激と同遺伝子発現の間を介在する因子を通した分子機構に踏み込む必要があることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
1)ティラピアHsd17β12L:2週間の性成熟リズムの中で血中DHP量と卵濾胞中Hsd17β12L mRNA発現量の変化が一致するか否かを調べる。MIHがDHPではない可能性も考えられ、LHで卵成熟誘導した卵濾胞培養液のLC/MS/MS解析を行い、産生ステロイドの種類を調べる。2)チョウザメ類のMIH:チョウザメ類の卵濾胞をSPE添加の元に大量培養する。卵成熟・排卵誘導後の培養液中のステロイドプロファイルをLC/MS/MSで解析し、血中プロファイルと比較することで、MIHの候補を絞る。3)Hsd17β12L遺伝子ノックアウトの作製:メダカホモ変異個体の卵成熟過程および血中DHP量を調べ、Hsd17β12LがDHP産生に必須であるかを確定する。ゼブラフィッシュでは遺伝子変異個体の作製を継続する。4)Hsd17β12L遺伝子発現調節機構:LH刺激とHsd17β12L遺伝子発現との間に介在すると想定される未知因子の候補を、メダカ卵濾胞マイクロアレイ解析とサクラマス顆粒膜細胞RNA-seq解析のクロススクリーニングから選抜する。5)チョウザメ類Hsd17β12L遺伝子をクローニングする。既に得られている断片配列を基に完全長cDNAをクローニングし、20β-HSD活性を持つか否かを明らかにする。6)DHPの前駆体である17OHP産生を制御する、ウナギcyp17a1およびcyp17a2遺伝子の上流域をクローニングする。5kbを目標に下流にルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだコンストラクトを作製する。7)Hsd17β12Lの基質特異性:これまでクローニングが完了したサクラマス、ウナギ、メダカ、ティラピアのHsd17β12Lの基質特異性を様々なステロイドを添加して代謝を調べることで明らかにする。これによって、Hsd17β12Lが20β-HSD活性のみを持つのかどうか確定する。
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