研究課題
ミナミメダカにおけるGsdfおよびDmrt1変異体の生殖腺分化過程における性分化関連遺伝子群の発現解析から、精巣分化過程におけるGsdf→Dmrt1の発現カスケードは一方向性ではなく、Dmrt1→Gsdfのループによる発現調節があることが明らかとなった。孵化時においてXXドミナントな発現を示す遺伝子として、Foxl3、Amhr2が見出された。エストロゲンによる性転換卵巣分化誘導においては、Gsdfの発現抑制および、Amhr2の発現上昇を伴うことが明らかとなった。Gsdf, Dmrt1変異XY個体でみられる卵巣分化過程においても同様にAmhr2の発現上昇がみられた。アンドロゲン、エストロゲンによる性転換誘導と同様な受精卵~孵化までのプロゲスチンによる浸漬処理は、濃度依存的にXX雄分化を誘導する。この過程で、合成アンドロゲンである (MT)によるXX精巣分化誘導時にみられるGsdfの発現誘導がみられることが明らかとなった。雌性先熟魚種であり、水産有用種であるクエ(Epinephelus bruneus)は他のハタ科魚類と比べて著しく成長が遅いため、本種の養殖は容易ではない。そのため、成長が早い優良種苗の作出が望まれているが、本種の雌の初回成熟には最低8年必要であり、その後、性転換し、雄として成熟するには更に長い年月を要する。昨年度、報告したようにMT投与により、機能的精子を有する成熟雄への性転換を2ヶ月で誘導する条件を確立した。優良系統確立のための基盤整備として、卵巣と精巣でドミナントに発現する遺伝子を探索するため、RNA-seqを行った。その結果、現在までに185,486本のcontigを得ており(N50 = 1453bp)、その中でアノテーションが付いた遺伝子数は66,625本であった。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、メダカの性転換過程における性分化関連遺伝子の発現プロファイルが明らかになり、新たな制御機構が明らかにできた。水産有用種についてもクエにおいても性転換精巣分化誘導過程における分子機構の理解のために、発現遺伝子の網羅的探索を開始している。
メダカ2種におけるGsdf、Amhr2、Dmrt1変異体を用いた生殖腺分化過程における性分化関連遺伝子ネットワークを明らかにするとともに、これらの変異体の性転換誘導において機能的に関与する遺伝子の探索を行う。クエに関しては、性転換精巣分化誘導によって作出された成熟性転換雄から得られた精子の質(受精能)を確認すると共に、現場での実用試験を計画している。さらに、本種の成魚および幼魚の性転換に伴う性分化関連遺伝子の発現動態の解析を行う。
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