研究課題/領域番号 |
18H02282
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
松山 知正 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水研機構(南勢), グループ長 (20372021)
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研究分担者 |
桐生 郁也 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水研機構(南勢), 主任研究員 (20443351)
藤原 篤志 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水研機構(横浜), 主幹研究員 (30443352)
高野 倫一 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水研機構(南勢), 主任研究員 (40533998)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アワビ / 筋萎縮症 / アスファウイルス |
研究実績の概要 |
今年度は以下の通り、①免疫組織科学染色によるウイルスの動態解析、②病原ウイルスの全ゲノム解析、③ウイルス粒子の形態解析を実施した。 ①5種のアワビに対して感染試験を実施し、経時的にウイルスゲノムを定量するとともに、免疫染色を実施し感染細胞の動態を解析した。0歳稚貝では、感染細胞は感染初期から死亡が始まるまで鰓で増加し、死亡が健在化する頃から収束する頃には筋肉に増加し始めた。一方で、本病で死亡がほとんど起こらない1歳以上のアワビでは、鰓でのウイルス増殖と感染細胞の出現は低位であった。 ②感染試験においてウイルスゲノムが最も多かったサンプルについて、ナノポアおよびIlluminaシーケンサーによりリードを取得し、混合アセンブルすることで、原因ウイルスの全ゲノムを解読することに成功した。本ウイルスのゲノムは約280kbpの線状で、309個の遺伝子が予測された。相同性解析では、多くの遺伝子がafrican swine fever virus (ASFV)に相同性を示した。ASFVと同様に、本ウイルスのゲノムの両末端にはパラログが多数連続して存在していた。ASFVとゲノム全体の構造も類似していた。 ③感染試験により作出した病貝からウイルス量が多く、かつ免疫染色で陽性細胞が多い個体を選び出し、TEM観察用のサンプルとした。鰓の上皮細胞中に約200nmのウイルス粒子を多数観察することに成功した。ウイルス粒子の形態はASFVと類似していた。 以上の結果から、アワビの筋萎縮症の原因ウイルスはASFVに最も近縁であると考えられた。ASFVは豚に高い病原性を示す畜産業にとって最も重要な病原体である。ASFVはアスファウイルス科に属する唯一のウイルスであり、近縁種は見つかっていなかった。アワビ筋萎縮症の原因ウイルスは、アスファウイルス科の2種目のウイルスと考えられ、ウイルス進化学的にも重要な位置を占める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年は、①病原ウイルスの全ゲノム解析、②ウイルス株間の比較ゲノム解析、③ウイルスの遺伝子発現解析を予定していたが、計画を変更し②③は行わず、代わりに感染細胞の動態解析とウイルス粒子の観察を行った。
感染試験を実施し、ウイルスと感染細胞の動態を、死亡の状況と合わせて解析し、鰓への感染と死亡に関係があることを推定することができた。 全ゲノムの解読と、長年不明であった原因ウイルスの形態を観察することに成功した。これらの成果を元に、本原因ウイルスをアスファウイルス科の新種として提唱する予定である。 また、病貝の体表粘液に本ウイルスが多く含まれることを見出し、本病の非破壊検査法を確立した。本手法はいくつかの自治体で種苗の検査や親貝の選別に利用されている。 計画とは実施内容が若干異なるが、全体としては順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、①ウイルス株間の比較ゲノム解析、②ウイルスの遺伝子発現解析を行い、病原ウイルスに関する知見を集積する。
①これまでに特定の数個の遺伝子について株間の比較を行い、若干の変異領域があることがわかっている。宿主生物種や発生年代の異なるウイルスについて、ゲノム全長を比較しする。 ②本ウイルスのゲノムには309個の遺伝子が予測されたが、各遺伝子の発現様式については全く不明である。ウイルスの遺伝子発現解析を行い、病原性機構について考察する。
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