研究課題/領域番号 |
18H02300
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
原田 昌佳 九州大学, 農学研究院, 准教授 (80325000)
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研究分担者 |
平松 和昭 九州大学, 農学研究院, 教授 (10199094)
濱上 邦彦 岩手大学, 農学部, 准教授 (20571699)
尾崎 彰則 九州大学, 熱帯農学研究センター, 助教 (40535944)
田畑 俊範 九州大学, 農学研究院, 助教 (80764985)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 有機汚濁 / 富栄養化 / 無酸素化解消 / 藻類制御 / 水環境修復 / 閉鎖性水域 / 水温成層 / アオコ |
研究実績の概要 |
2019年度では,サブユニット①,サブユニット②の継続とともにサブユニット③との連携を図ることで下記の成果を得た. サブユニット①として,気候・地理的要因から特徴付けられる水域の水環境特性を水質汚濁問題の発生要因と関連付けて検討した.亜寒帯地域の富栄養化水域を対象に,浮力調節を有する藍藻類の鉛直移動について,藻類の生態的特性と水温成層の形成・消失の水理学的特性の二つの視点から特徴付けて,アオコの発生要因を考察した.温帯地域の有機汚濁水域を対象に,冬季の水温成層化,梅雨時期の少雨による透明度向上,秋雨前線の停滞に伴う雨水流入量の増大の観点から,気温・雨量の気象的要因が無酸素化に起因する水質動態に及ぼす影響を評価した.熱帯地域の汽水性養殖池における下層高水温現象について,発生要因を水理学的に特定するとともに,微生物のDNA解析を通じて水産病害の観点から水環境劣化を捉え,特に物理的要因として,降雨を契機として形成される塩分3 成層と断熱効果を有する塩分濃度勾配層の存在を見出した. つぎに,サブユニット②,③の連携として,第一に,過栄養化水域のアオコ防止対策に資する水環境修復技術に着目した.銅イオン殺菌効果による藻類抑制技術の可能性を実験的に検討し,銅イオンの藍藻類に対する増殖抑制効果が非常に高く,アオコの防止対策としての有効性を示した.ついで,窒素制限的な過栄養化貯水池の水質動態に関する数理解析を行い,硝酸とリン酸の削減が水環境修復に与える影響を定量的に評価した.第二に,有機汚濁化水域を対象に,人為的な水面冷却による水環境修復技術の有効性について円筒水槽を用いた水質実験より示した.加えて,熱対流に起因する物質輸送の移流効果を加味した鉛直一次元水質モデルを構築し,水面冷却による無酸素化の解消効果と藻類増殖の抑制効果について,実水域スケールでのシナリオ分析より定量的に評価した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず,気候・地理的要因による閉鎖性水域の水環境特性を把握するための現地観測を行い,水質改善技術の開発に関わる知見を得た.亜寒帯地域の水温日成層が顕著な水域を対象に,浮力調節を有する藍藻類の鉛直移動を生態学的・水理学的側面から検討し,アオコの発生要因に関する知見を得た.また,温帯地域の二つの閉鎖性水域を対象に,気温・雨量の気象的要因が無酸素化に起因する水質動態に及ぼす影響と,窒素制限的な過栄養化水域での藍藻類の増殖特性を定量化し,水質汚濁問題の発生要因に関する知見を得た.さらに,熱帯地域の汽水域の底層水高温化について,水理学的な発生要因と水産病害の原因となる微生物の出現特性に関する知見を得た. 次に,水環境問題解決のための基礎的な技術開発として,1)水中LEDを利用した無酸素化解消技術に関して,光スペクトル特性と関連づけて水環境修復効果についての知見,2)銅イオンのもつ殺菌効果を利用したアオコ制御技術に関して,水温と栄養塩の環境要因の影響を踏まえた藻類増殖の抑制効果についての知見,3)人為的な水面冷却を通じた深水層での貧酸素化抑制と表水層での藻類増殖制御の効果についての知見を得た. さらに,水質汚濁水域の水環境修復効果を定量的に解析可能な二つの水質予測モデルを構築した.長期的にアオコが発生するような過栄養化水域に適用可能なワンボックス型生態系モデルを構築し,栄養塩の流入負荷対策技術の導入に関わる環境影響評価手法を確立した.また,熱対流に起因する物質輸送の移流効果を考慮に入れた鉛直一次元水理・水質モデルを構築し,水面冷却による無酸素化解消と藻類増殖抑制の効果を定量的に評価可能な水環境解析手法を確立した. 以上から,これまでの研究成果によってサブユニット①~③の達成度は高く,最終目標のサブユニット④(水環境問題解決のための発展的な技術開発)に向けて着実に研究は進行している.
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今後の研究の推進方策 |
まず,水質改善技術の開発に資する現地観測を継続し,気候・地理的な環境要因の異なる閉鎖性水域を対象に水質汚濁問題の発生要因の定量化に努める.亜寒帯地域では,水温日成層の形成が顕著な富栄養化水域を対象に藍藻類の鉛直移動特性を支配する環境要因を特定する.温帯地域では,水深が比較的深く長期的な無酸素条化が発生する有機汚濁水域を対象に,嫌気的条件下での水環境動態に影響を及ぼす環境要因を定量的に評価する.加えて,過剰なリン流入負荷のもと窒素制限的な過栄養化水域を対象に,藍藻類の時空間分布特性を解析する.熱帯地域では,汽水性養殖池で生じる下層高水温現象に焦点を当て,その発生下における水質変動について,塩分3 成層状態の発生メカニズムと微生物増減傾向との関連から明らかにし,水質改善技術の開発に資する知見の収集を目指す. 過去2年間の研究成果を踏まえて,最終的な目標である「水環境問題解決のための発展的な技術開発」を完結させる.まず,過栄養化水域に適用可能なハイブリッド型水環境修復技術として,栄養塩の流入負荷削減技術と銅イオンの殺菌効果による藻類抑制の融合を検証する.2018年度からの水質実験を継続的に実施するとともに,両者のハイブリット化による水質改善効果について,2019年度に開発したワンボックス型生態系モデルベースの水質予測モデルにより評価を行う.また,有機汚濁水域を対象とした発展的な技術開発として,水面冷却を利用した鉛直混合による無酸素化抑制とLEDによる光合成活性化を通じた無酸素化解消とのハイブリット化を検討する.水面冷却による熱対流とLED照射による光合成活性化の最適制御という観点から,無酸素化に起因する水環境劣化を解決するための発展的な技術開発に取り組む.加えて,2019年度に開発した水理-水質モデルによるシナリオ分析を通じて,実水域スケールでの水環境保全効果を検証する.
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