研究課題/領域番号 |
18H02304
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
黒木 信一郎 神戸大学, 農学研究科, 助教 (00420505)
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研究分担者 |
伊藤 博通 神戸大学, 農学研究科, 教授 (00258063)
福島 崇志 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (00452227)
中野 浩平 岐阜大学, 大学院連合農学研究科, 教授 (20303513)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 膜張力 / 鮮度 / プロトプラスト / 単離工程 / 浸透圧非応答体積 |
研究実績の概要 |
本年度は、播種から8週間後に収穫された水耕栽培のホウレンソウ葉の第3または第4葉を対象に、低浸透圧耐性の評価、および細胞膜の浸透透水係数の測定を実施した。低浸透圧耐性の評価において、深層学習の一つであるSegNetを用いたセマンティックセグメンテーションによって顕微画像中のプロトプラスト領域を検出すると共に、その円形度に閾値を設けてプロトプラストを識別する手法を考案した。GPUコンピューティングで学習させた検出器の性能は、感度と適合率の調和平均であるF-measureで92.1%であった。また直径の測定誤差は1.08 μmであった。これにより、手動計測を代替可能かつ再現性や時間短縮性に優れる、生存細胞数および直径の自動測定が可能となった。また本自動計測手法の確立を受けて、酵素処理時間や遠心分離の強度を変えて単離されたプロトプラストの力学的特性を測定した結果、過度な酵素処理時間および遠心分離はプロトプラストを脆弱化させ、貯蔵に伴う細胞膜の力学的特性の変化の観察を困難にすることが明らかとなった。細胞膜の水輸送物性の計測においては、収穫後の時間経過と共に浸透透水係数は増大する一方で浸透圧非応答体積が減少することを明らかにした。これらの結果は、ホウレンソウ葉肉細胞内部の小器官が分解されている、あるいは水和水が減少していることなどを示すものであり、収穫後のホウレンソウ葉における水分損失機構について重要な知見を与えると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
プロトプラスト数やその直径の計測の自動化に成功したことにより、単離操作そのものが細胞膜の力学的特性に与える影響の調査が加速した。一方で、プロトプラスト膨張破裂時の膜張力ごとの水伝導係数や拡散透水係数のデータ収集にまでは至っておらず、力学的特性と輸送物性との関係については明らかにできていない。またそのため、タイムラプスハイパースペクトル画像を機械学習技術を用いて解析する際に必要な参照データの蓄積にも遅れが生じている。ガラスプーラーの導入により、マイクロキャピラリー先端加工の高精度化には目途がついた。以上を総合すると、本研究課題はやや遅れていると自己評価される。
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今後の研究の推進方策 |
種々の温度およびガス環境における貯蔵試験を行い、鮮度状態が段階的に異なる青果物試料を作出する。プロトプラストの単離条件ごとに、細胞膜の輸送物性や力学物性を計測し、両者の関係性を明らかにすると共に、細胞膜の機能劣化を定量化する。また、プレッシャープローブ法による細胞弾性率の計測と、および組織レベルにおける細胞の水透過性を測定し、プロトプラストを観察試料とする核磁気共鳴法と二層流法とによる細胞膜の拡散・浸透透水係数と比較する。抗酸化酵素や抗酸化物質など抗酸化能に関わる一連の酸化ストレスマーカーの計測、および脂質過酸化・分解産物を分析する。得られた参照データを用いてタイムラプスハイパースペクトル画像の解析を行い、鮮度の非破壊推定法とその分光学的解釈について議論する。
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