研究課題
3年目にあたる本年度は、課題1:土地利用が土壌微生物群集の多様性・機能および群集内・間の炭素利用効率に与える影響の解明、に取り組むため、1-2年目の作業を継続し、熱帯酸性土壌であるタンザニアと、熱帯アルカリ性土壌であるインドにおいて、土地利用が異なる4地点から採取した土壌の分析を行った。この結果、アンプリコン解析を用いた土壌微生物の群集構造の解析およびシャノン指数を用いた多様性評価の結果、炭素利用効率が高い地点で、1)特定の微生物群集が存在すること、2)微生物の多様性が高いこと、を明らかにした。以上のことは、仮説「農地化に伴う微生物群集構造の変化は炭素利用効率を低下させる」を支持している。本年度は、タンザニア試料を対象に、昨年実施したStable Isotope Probe法を用いて実際に添加基質を利用している微生物群集を同定した。この結果、炭素利用効率が高い森林と低い畑地を比べると、細菌群集で明確な差がない一方で、糸状菌群集に顕著な差がある(森林で多様な糸状菌が炭素利用に関与している)ことが判明した。このことは、農地化に伴う糸状菌群集の劣化が炭素利用効率の低下の原因であることを示唆しており、当初の仮説を具体的に検証できたといえる。一方、土壌pHが高いインド試料においては、土地利用で土壌微生物群集は明確に異なった一方で、炭素利用効率は農地と森林で差がなかった。この原因は現段階で不明であるが、アルカリ性環境下では糸状菌群集は存在量も少なく活性も低いこと、ある一定の土壌pHを超えると細菌群集組成も単純化すること、などが原因に考えられる。また、COVID-19の影響を受け、現地圃場試験の遂行を前提とする課題2の遂行が困難になった。そこで研究計画を微修正し、国内の類似土壌を用いて土地利用や肥培管理が土壌微生物群集構造を介して炭素利用効率に与える影響の解明を行うための準備を行った。
3: やや遅れている
上述した通り、課題1に関しては、当初計画通りの成果が得られている。一方で課題2に関しては、当初計画していたタンザニアでの現地圃場試験の遂行が、COVID-19の影響で非常に困難になってしまったために、計画の微修正が求められた。この結果、当初計画していた、炭素利用効率を上げるために必要な土地利用・肥培管理に関する知見を得るための実験は予定通り進まなかった。そのため、(3)やや遅れている、とした。
課題2:多様な有機物の施用が有機物分解速度に与える影響の解明、に関しては、COVID-19の影響を考慮し現地での圃場試験を中止・変更し、すでに手元にある現地土壌を用い新規の培養実験を実施するとともに、国内の類似土壌(具体的には沖縄県内)も新規試料に加えて、炭素利用効率を改善する肥培管理法の検討を進めることとする。加えて、課題1および2で得られた研究成果を国内外の学会で発表するとともに、投稿論文としての取りまとめを行う。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件) 図書 (2件)
Soil Systems
巻: 4(3) ページ: 46
10.3390/soilsystems4030046
Soil Ecology Letters
巻: 2 ページ: 281-294
10.1007/s42832-020-0042-6