研究課題
反芻家畜の第一胃(ルーメン)で生成されるメタンガスは温室効果ガスとして畜産分野での環境負荷の主要因となっている。一方で、これら家畜の排泄物(糞)からもメタンガスは発生し、その量はルーメン由来のメタンの1/5程度と見積もられている。よって糞の放置や堆積が大量に想定される場合はメタンガスの低減が望まれる。カシュー殻液は抗菌性フェノール成分として知られるアルキルフェノールを高い濃度で含有しており、ウシに給与した場合、ルーメンのみならず糞便の菌叢や発酵産物を変化させうると考えられる。とくに糞便へのカシュー殻液給与の影響は査定されておらず、糞由来のメタン低減についての指針を示すものと思われ、評価を実施した。タイ在来牛4頭を配合飼料と稲わらで飼養し、配合飼料にカシュー殻液製剤を混合添加した。添加給与前(対照期)と添加給与後4週目(処理期)にルーメン液および糞便を採取し、発酵産物、菌叢、ならびにガス生成量と組成について分析した。発酵産物は定法で、菌叢については定量PCRと次世代シーケンシングで、ガスについては一定量のルーメン液または糞便を緩衝液で希釈後、密閉チューブ内で24時間嫌気培養し、ヘッドスペースのガスをガスクロマトグラフィー分析した。ルーメンではメタンガス生成ポテンシャルがおおむね50%低下し、同時にプロピオン酸モル比が高まった。糞便でもメタン生成ポテンシャルが80%程度低下した。また、ルーメンと同様に糞便でもカシュー殻液給与時にプロピオン酸モル比が高くなった。糞便の菌叢については解析中である。3種のアルキルフェノールの比率は、原液の比率とルーメンおよび糞便でみられる比率とに大きな違いはなく、タイ在来牛の消化管の中で、脱炭酸を受けずに糞に排泄されるものと推定された。よってタイ在来牛へのカシュー殻液の給与は、ルーメンのみならず糞便からのメタン生成を低減できる可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
アルキルフェノール含有の天然素材2つ(カシュー殻液およびギンナン果肉)のうち、カシュー殻液について、実際の給与試験で糞便への効果を検証することを試みたが、実績の概要が示すように、糞便からのメタンガス削減が認められた。当初に想定した糞への素材直接添加混合(初年度に実証)に加え、素材給与で糞便からのメタン低減を実証できたのは大きな進捗である。これにより、ルーメンおよび糞便双方からのメタン削減に道が開けたものと考えている。菌叢変化については解析が終わっていないものの、本研究の進捗はおおむね順調であると考えている。
2019年度の取り組みにて、タイ在来牛へのカシュー殻液製剤給与による糞便からのメタン生成において、低減が確認された。したがって、糞便へ直接資材を添加混合するだけでなく、資材を飼料に添加給与することで十分な糞便からのメタン生成の抑制が期待できることがわかった。東南アジア諸国では、これら在来牛のほかに、沼沢水牛が多数かつ長期に渡り飼養されており、これらからのメタン排出も念頭に置いて削減の取り組みに当たる必要がある。したがって今後は当該の資材を用い、沼沢水牛でも在来牛と同様の給与効果が期待できるか(糞便からのメタン生成の低減が可能か)について検討を進めることとする。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
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