研究課題
東南アジアは世界で有数の反芻家畜からのメタン排出が多大な地域であり、カシュー殻液に代表されるメタン削減素材の機能評価が望まれているため、試験を実施した。すなわち、沼沢水牛4頭を用いたカシューナッツ殻液製剤給与試験を実施した。沼沢水牛はタイのみならず、東南アジアの代表的家畜で飼養年数も長いことから、ルーメンおよび糞便からのメタン削減のより広範囲にわたる高いインパクトが期待できる。カシューナッツ殻液製剤給与により、沼沢水牛ルーメン液からのメタン生成ポテンシャルは、無添加飼料給与時(対照)に比べ73%低下した。一方、プロピオン酸のモル比は31%増加した。これらはルーメン内での代謝性水素の処理系がメタン生成からフマル酸還元にシフトした結果、ひきおこされたものと推察できた。微生物相の解析結果はこの推察を明瞭に裏付けていた。すなわち、カシューナッツ殻液製剤給与により、水素やギ酸を生成する菌群(TreponemaやRuminococcus)が検出率を下げる一方、コハク酸(プロピオン酸前駆体)やプロピオン酸の生成に関与する菌群(PrevotellaおよびSucciniclasticum)が検出率を上げた。さらに新しい知見として、メタン生成古細菌の構成も変化し、Methanomassiliicoccaceaeが減少、Methanomicrococcusが増加した。一方、糞便でもメタン生成ポテンシャルの低下(74%)が認められた。その際、酢酸比の低下とプロピオン酸比の増加が生じた。メタン減少は、微生物相の変化に対応したものと推測された。すなわち、Unclassified RuminococcaceaeおよびMethanomassiliicoccaceaeの減少が認められた。以上より、カシューナッツ殻液製剤給与によるルーメンおよび糞便からのメタン減少は、沼沢水牛ではその他の牛よりもやや明確に生じること、それは微生物相の変化と連動していることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
メタン排出の大きな地域で飼養されている反芻家畜に対し、アルキルフェノール含有天然素材候補2種のうち1種(カシュー殻液)を含む飼料を実際に給与し、ルーメンおよび糞便からのメタン削減効果を検証することができた。また、それらが微生物相の変化で概ね説明できることを明らかにした。当初に想定した糞への素材直接添加混合(初年度に実証)に加え、素材給与で糞便からのメタン低減を実証できたのは大きな進捗である。これにより、ルーメンおよび糞便双方からのメタン削減に道が開けるのではないかと考えている。残すあと一つの素材(ギンナン粕)の機能性について最終年度で検証することとするが、当初計画した研究は、おおむね順調に進行していると自己評価している。
メタン削減という機能保有が期待されるもうひとつの素材(ギンナン粕)について、最終年度で少し掘り下げた評価を実施することを計画している。すなわち、糞便への直接添加だけではなく、スラリー貯留槽への応用を想定したメタン削減研究となる。スラリーの一部はバイオガス施設への供給とガス回収・利用となるものの、予備タンク貯留時にかなりの量のメタンガスが大気へ排出されることが懸念されている。したがって何らかの削減対策が必要であるものの、有効な方法はない。そこでギンナン粕のスラリーへの直接投与によるメタン削減を試み、その有効性について評価する。これにより糞のみならず貯留スラリーからの温暖化ガス低減法の提案に資するものとする。
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