最終年度にあたる令和2年度は、卵母細胞(卵子)または排卵過程におけるリラキシン(RLN)とその関連因子(INSL3)の作用機構を目指した。得られた知見は以下の通りである。 1. 卵子におけるRLNまたはINSL3の作用機構 屠場より採取したovary(卵巣)より、卵子を採取し、RLN受容体RXFP1およびINSL3受容体RXFP2の発現をタンパク質レベル(免疫染色とWestern blot)で調べた。その結果、卵細胞膜にこれらの受容体が発現していることを見出した。次に、卵子の体外成熟培養を行い、RLNまたはINSL3の存在下(各0-100 nM)で卵成熟が誘導されるか調べたが、有意な変動を見出すことはできなかった。以上、卵子にはRLNまたはINSL3の受容体RXFP1またはRXFP2が発現しているものの、受容体を介したホルモンの作用についてはさらなる検討の必要性が示唆された。
2. 排卵過程におけるRLNまたはINSL3の作用機構 排卵に至る発情期の卵巣の最大卵胞を採取し、卵胞液中のRLNとINSL3濃度をTR-FIAで測定した結果、RLN濃度は平均3 ng/ml、INSL3は平均23 ng/mlであることがわかった。次に、卵胞壁を構成する細胞群において受容体RXFP1とRXFP2の両者が発現していることが判明した。さらに、卵胞壁の短時間培養を行い、タンパク分解カスケード分子に及ぼすRLNとINSL3の影響を調べた。その結果、RLNはプラスミノーゲン活性化因子を有意に増加させたが、INSL3にはそのような効果がないことを明示した。同様に、組織コラゲナーゼMMP1とゲラチナーゼMMP2もRLNで活性化することが判明した。以上、RLNは受容体RXFP1を介してタンパク分解カスケード分子を活性化し卵胞を破裂させ排卵に関与するが、INSL3にはそのような作用のないことが示唆された。
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