研究実績の概要 |
狂犬病ウイルスは致死的な神経症状を惹き起こし、毎年55,000名以上を死に至らしめる。本研究では、狂犬病ウイルス感染時のウイルスと宿主因子の相互作用解析を通じて、狂犬病ウイルスの細胞内増殖機構およびそれに対する宿主の感染制御機構の解明を目的としている。これまでに、siRNAライブラリースクリーニングを実施し、細胞の狂犬病ウイルス感受性を変化させる28個の宿主遺伝子を同定している。 本年度は、同定した狂犬病ウイルス感染に関与する28個の遺伝子のうち27個のORFをクローニングし、発現ベクターを構築した。今後、発現ベクターを使用した遺伝子発現解析を行う。 また、上記の遺伝子群のうち狂犬病ウイルスの細胞感染を促進させる宿主転写関連因子Y-box binding protein(YB1)の解析を実施した。細胞のYB-1遺伝子発現のノックダウンにより、感染細胞におけるRABV遺伝子発現量と上清中の子孫ウイルス量が減少した。cross-linking immunoprecipitation(CLIP)およびゲルシフトアッセイ(RNA-EMSA)解析により、YB-1がウイルスmRNAの5’-UTRに結合することが判明し、その標的配列 (Y-box recognition sequence, YRS) を同定した。同定したYRSは5つのRABV遺伝子全ての5’-UTRに存在していたが、各YRSは1-2塩基の相違を認めた。そこで、各YRSのいずれかを有するRABV minigenome発現プラスミドをそれぞれ作出し、レポーターアッセイを実施した結果、NおよびP遺伝子の5’-UTRに存在するYRSを有するRABV minigenomeは、M,G,L遺伝子の5’-UTRに存在するYRSを有するRABV minigenomeに比べて強いレポーターシグナルを生じた。以上の結果から、RABVは自身のmRNAに存在するYRSとYB-1の結合を介して、ウイルス遺伝子発現量を増加させ、ウイルス増殖を亢進させることを明らかとした。
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