研究課題/領域番号 |
18H02334
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
森松 正美 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (70241370)
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研究分担者 |
安居院 高志 北海道大学, 獣医学研究院, 教授 (00212457)
落合 和彦 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 准教授 (30550488)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | BRCAl2 / RAD51 / 乳腺腫瘍 / p53 / 分子間相互作用 |
研究実績の概要 |
イヌの乳腺腫瘍および前立腺腫瘍について、癌抑制タンパク質BRCA2が腫瘍の発症に及ぼす影響を解明するため、新規の実験モデルを作製するとともに、BRCA2結合分子群、すなわちRAD51、PALB2などに焦点をあてて、これら分子の相互作用の影響も解析して腫瘍発症におけるこれらの分子の役割を明らかにすることを目的とした。 BRCA2に相互作用することがヒトで報告されているがん抑制遺伝子産物p53について、イヌの乳腺腫瘍細胞株CBT-m2でLeu332Gln変異が存在することを発見した。p53は、遺伝毒性誘導ストレスに応答して機能が活性化し、DNA損傷細胞の細胞周期停止やアポトーシス誘導を引き起こし、細胞のがん化を防ぐと考えられている。私たちが発見したイヌp53の変異は、ヒトでp53の活性型である四量体の形成に関与すると報告されていることに着目し、CBT-m2細胞の性状を解析したところ、野生型のp53を有するCBT-m細胞株に比べて細胞増殖能が上昇していた。p53四量体化による転写活性化のレポーター解析実験系を確立したところ、変異型では活性の低下が見られた。更に架橋試薬で処理した後に電気泳動解析を行ったところ、四量体形成能が低下していることがタンパク質化学的にも確認された。また、立体構造のin silico解析でも、この変異アミノ酸がp53分子間の会合部位に位置すると考えられた。これらの結果から、CBT-m細胞株は、イヌ由来のp53の機能解析に有用であることが示され、更にはBRCA2の機能解析にも応用可能である可能性が示唆された。 イヌBRCA2のRAD51結合配列をコードするエキソン11について、イヌの腫瘍組織を収集して変異の解析を行った。これにより、疾患遺伝子としてイヌBRCA2を評価するための、新たな変異データが蓄積された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
BRCA2と相互作用するp53について、イヌの乳腺腫瘍細胞株CBT-m2で変異を発見し、この変異が四量体の形成や細胞増殖に影響していることを示唆する結果を得たことは、新規のモデルを開発するという成果に結びつき、これらを論文に報告できたことは評価に値する。また、イヌBRCA2の変異を解析し、データを蓄積することによって疾患遺伝子としてのイヌBRCA2の価値を高め、これを学会報告したことも評価に値する。 しかし、北海道胆振東部地震の影響を受けるなどして研究が当初の計画通りには進まなかったため、やや遅れているとの評価をした。
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今後の研究の推進方策 |
イヌの乳腺腫瘍および前立腺腫瘍について、癌抑制タンパク質BRCA2が腫瘍の発症に及ぼす影響を解明するため、ラットやマウスでの新規の実験モデルを作製する必要があり、その準備を進めたい。ラットではマウスに比べて発生工学的手法の普及が進んでおらず、それが研究を進める上て影響しているが、これまで以上にエキスパートからの助言を得るなどして改善を図りたい。 BRCA2結合分子群の解析については、これまで着手できていない分子にも研究を展開し、これら分子の相互作用の影響も解析して腫瘍発症におけるこれらの分子の役割を明らかにするべく、研究を進めて行きたい。
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