研究課題
農場経営を進める上で病原性原虫ネオスポラの感染による流産に注意する必要がある。しかしネオスポラに対するワクチンや治療薬は実用化されていないため、ネオスポラ誘発性流産の発症メカニズムの理解に基づく防御方法の開発が必要とされる。そこで、「原虫由来の流産誘発因子が存在し、妊娠子宮での環境を変化させることで胎盤の炎症、壊死が誘発され流産が起こる」という仮説を立てた。本研究では、感染マウスの流産モデルを確立し、原虫側および宿主側の流産誘発因子の特定を行い、その証明を試みる。ネオスポラの流産誘発因子の同定および流産発生のメカニズムの解明は、ワクチンを含めた流産の予防法の開発において極めて重要な科学的知見を提供することができ、本疾病対策へ大きく貢献できる。これまでに以下の項目を明らかにした。【妊娠期感染モデルの確立およびその病態解析】ネオスポラ感染マウスの妊娠期モデルを確立し、流産あるいは異常妊娠発症時における免疫応答および組織学的変化を病理組織学的に解析した。本感染モデルにおいて、ネオスポラ感染による流産及び胎児異常が確認され、病理組織学的検索により子宮胎盤組織における炎症が確認された。【原虫由来流産誘発因子のスクリーニング】過剰な炎症反応の惹起や炎症性細胞の遊走に影響を与える宿主遺伝子の発現を増強させるネオスポラ分子をルシフェラーゼアッセイ法により同定した。【流産誘発因子破壊原虫の作製とin vitroでの性状解析】スクリーニングした原虫因子を流産誘発因子の候補とし、「CRISPR-Cas9によるネオスポラの遺伝子編集技術」を用いて当該遺伝子を破壊した原虫を作製した。
2: おおむね順調に進展している
【妊娠期感染モデルの確立およびその病態解析】C57BL/6マウスとBLAB/cマウスを用いて、ネオスポラの妊娠期感染による妊娠・出産の影響を解析した。原虫の感染数と感染させる妊娠期を検討したところ、C57BL/6マウスの妊娠3日目に100万個原虫を感染させると流産や胎児異常が80%の割合で認められた。病理組織学的検索の結果、前述の感染マウスの胎盤組織において炎症が認められた。妊娠13日目に前述の感染マウス及び非感染マウスの胎盤及び脾臓を採材し、リアルタイムPCRによるmRNA発現の相対比較を行った。胎盤組織ではネオスポラの感染により炎症性サイトカインのIFN-g及び各種ケモカイン(CCL2, CCL8, CXCL9)の発現が増加していた。一方脾臓組織では、原虫の感染により炎症性サイトカインTNF-αの発現が現象し、ケモカインCCL9の発現が増加していた。【原虫由来流産誘発因子のスクリーニング】過剰な炎症反応の惹起や炎症性細胞の遊走に影響を与える宿主遺伝子の発現を増強させるネオスポラ分子をルシフェラーゼアッセイ法によりスクリーニングし、候補分子としてNcGRA7を同定した。【流産誘発因子破壊原虫の作製とin vitroでの性状解析】NcGRA7を流産誘発因子の候補とし、「CRISPR-Cas9によるネオスポラの遺伝子編集技術」を用いて当該遺伝子を破壊した原虫とNcGRA7-FLAG融合タンパク質発現原虫を作製した。THP1(単球細胞株)を用いて免疫反応を解析し、NcGRA7破壊株では免疫活性化能と細胞毒性(アポトーシス誘導)の低下が認められた。以上の結果より、NcGRA7は炎症反応の誘導に伴う組織障害に関与していることが推測される。
【流産誘発因子破壊原虫を用いたマウス感染実験による妊娠期の病態解析】活性が確認された原虫因子について、その原虫因子破壊株を非妊娠雌マウスへ感染させ、マウスの生存率と組織の病理組織学的、免疫組織化学的解析を実施し、野生型原虫の感染での結果と比較することで、遺伝子破壊による原虫の病原性の変化を解析する。【流産誘発因子と相互作用する宿主因子の同定】FLAGタグ融合原虫因子を遺伝子欠損原虫へ導入した原虫株を作製する、この原虫株を栄養膜細胞の細胞株へ感染させ、そのライセートをFLAGタグ抗体で免疫沈降し、質量分析(MALDI-TOF-MSあるいはnanoLC-MS/MS)により結合タンパク質を同定する。【ネオスポラ流産牛の組織サンプルを用いた流産誘発因子および宿主因子の同定】以上の研究課題により同定された原虫由来流産誘発因子と宿主因子について、ネオスポラ流産牛の組織サンプル(胎盤、流産胎児等)における発現を確認する。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 7件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件) 備考 (3件)
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