本年度は海馬神経新生の不可逆影響物質であるプロピオチオウラシル(PTU),バルプロ酸(VPA),グリシドール(GLY)を発達期曝露した児動物で,生後21日目(PND 21)の海馬歯状回においてMethyl-SeqとRNA-Seq解析により得られたプロモーター領域過メチル化・発現低下遺伝子について,PND 21とPND 77におけるqRT-PCRによるmRNA発現とメチル化特異的高解像度融解曲線法によるメチル化の検証解析を実施した。その結果,PND 21ではPTUにおいて7遺伝子,GLYにおいて1遺伝子の過メチル化と発現低下が確認できた。PND 77ではPTUにおいて3遺伝子で確認できた。そのうち,neurograninは免疫組織化学的解析によりGLYでPND 21とPND 77において顆粒細胞層での陽性細胞数の減数を認め,現在,ヒトでの重要発達神経毒性物質であるエタノール,酢酸鉛,塩化アルミニウムの発達期曝露例で検討をしている。 また,エタノール,酢酸鉛,塩化アルミニウムについて,一般毒性試験の枠組みでラット28日間反復経口投与を実施し,海馬神経新生影響を探索した。その結果,エタノールはシナプス可塑性の低下やparvalbumin陽性介在ニューロンシグナルの増加によるtype-1神経幹細胞の増加とtype-2a神経前駆細胞の減少を示した。酢酸鉛は酸化ストレスに起因するtype-2b神経前駆細胞への分化抑制やcalretinin陽性介在ニューロンシグナルの増加による成熟ニューロンやシナプス可塑性の増加を示した。塩化アルミニウムではparvalbumin陽性介在ニューロンシグナルの増加によるtype-2a神経前駆細胞への分化抑制と酸化ストレスの亢進による神経前駆細胞のアポトーシスとアストロサイトの増生が示唆された。
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