研究課題/領域番号 |
18H02357
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
山縣 一夫 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (10361312)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 体外卵胞培養 / 再構成卵胞 / クロマチン / ライブセルイメージング |
研究実績の概要 |
哺乳動物卵子は卵巣において顆粒膜細胞で包まれた卵胞という形で存在しており、刺激を受けると短期間で大きさは数百倍にまで成長する。その間、核内においてはグローバルな遺伝子転写の変動と核内クロマチン局在の変換、減数分裂の再開などが行われ、その後の受精や発生を保障する特殊なクロマチン状態が形成される。我々はこの変化を卵子の「核機能性獲得ダイナミクス」と定義して、最終的にはその機序や生物学的な意義を明らかにすることを学術的問いとし、本申請期間においてはそのための方法論として体外卵胞培養しながら生きたままそれを観察する系を確立することを目的としている。併せて、期間の後半には始原生殖細胞や多能性幹細胞から誘導した再構成卵胞卵子に関して同様の検討を行い、それを卵胞内卵子と比較することで、本方法論の有用性を証明する。一昨年度までに確立した、卵巣より採取した未成熟卵胞(二次卵胞)卵子に直接顕微操作によって蛍光プローブを安定的に導入する手法を用い、昨年度は卵子成長過程や成熟過程における核内クロマチン構造を連続的に観察することに成功した。また、核内クロマチン状態の大規模な変化の生物学的意義を明らかにするためには、観察後の卵子のその後の成熟能や受精能、さらにはその後の発生能と直接紐づける必要がある。そこで、観察後の卵子を一つ一つ個別にin vitroで成熟させたのち、個別に体外受精と体外培養を行う。その後、一つの胚を一つの子宮に移植(単一胚移植)することで、未成熟卵子から産仔までの一連の過程を直接個別に紐づける試みを行った。ここで確立された方法論は、卵胞や卵胞内卵子の観察に限らず、申請書が行っている受精直後や初期胚発生におけるクロマチン変換の観察にも応用され、別紙のとおりいくつかの成果に結びついた。特に単一胚移植の成功は、本研究に加え生殖補助医療の基礎技術として応用性が高く、特筆すべき成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本提案では、計画を大きく3つのステップに分け、1)未成熟卵胞内卵子への蛍光プローブ導入法の確立、2)イメージング後に産仔獲得が可能な体外卵胞培養法の確立、3)クロマチン動態の数値化と産仔作出能の関連付け、の順に研究を進めていくこととした。上述の通り、これまでにライブセルイメージングのための条件検討を行い、結果的に卵胞内卵子に再現性良く蛍光プローブを導入するマイクロインジェクション法を確立した。これにより1)は達成したことになる。また、2)と3)として、イメージングの卵子を個別に成熟させたのち、個別に体外受精と培養を行い、さらに一つの胚を一つの子宮に移植する方法論(単一胚移植)の開発を進めた。すでに、成熟卵子を個別体外受精後に個別培養することには成功している。また、一つの胚を一つの子宮に移植することで高効率に産仔を得ることにも成功し、論文発表することができた。これらにより当初の計画以上の進捗を見せたと考えている。一方で、多能性幹細胞より体外で未成熟卵胞を作る事には未だ成功していない。その代替策として、未成熟卵巣中の始原生殖細胞から未成熟卵胞を形成させることには成功している。これらを総合し、本研究は「おおむね順調に進展している」とした。合わせて、昨年度得られた各種条件などの情報は、申請者の他プロジェクトにも応用され相乗効果を生んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
上述の通り、研究計画の3つのステップのうち、「1)未成熟卵胞内卵子への蛍光プローブ導入法の確立」は完了し、本年度は「2)イメージング後に産仔獲得が可能な体外卵胞培養法の確立」と「3)クロマチン動態の数値化と産仔作出能の関連付け」に関して要素技術の開発に成功している。そこで、最終年度となる次年度は、卵子成熟過程の長時間ライブセルイメージング後の卵子から一つ一つを紐づけながら産仔を得ることを目標に研究開発をすすめ、2)及び3)を完了させる。具体的には、少しでも発生能の高い卵子を得るために、成熟過程の培養条件をさらに検討する。さらに、イメージングによる細胞へのダメージを極限まで抑えるような観察条件をさらに検討する。また、受精卵の体外培養の培養条件も検討することにより、産仔率向上を目指す。それらが整ったのち、成熟過程と胚発生過程の核内クロマチン構造変化の数値化を一つずつの卵子で紐づけながら行い、それらと産仔作出能との連関性について明らかにする。核内クロマチン構造の定量化には、従来用いているHistone H2Bによるグローバルな核内局在を観察するのに加え、ゲノム編集に使うTALE法を応用した方法、さらには蛍光ラベルしたguide RNAとdCAS9の組み合わせによるLive-FISH技術などを用いて、特定の染色体領域を可視化する。これら試みにより、将来的には卵子成長・成熟過程における核内クロマチンの大規模な構造変化が、その後の受精や発生にどのように影響を与えるかについて明らかにし、その生物学的意義の解明に迫る。
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