研究課題
これまで心肥大・心不全の発症プロセス研究には、マウス横行大動脈縮窄術(Transverse Aortic Constriction (TAC))モデルが汎用されてきた。TACモデルは、心筋細胞肥大と心臓線維化という心不全の主要病態の理解に大きく貢献してきた。しかしながら、心肥大・心不全病態発症プロセスを逆行させることが必ずしも心機能を回復させる訳ではなく、心機能回復プロセスそのものを検証する新たな病態モデル開発が切望されてきた。今回我々は、TACモデル後に圧負荷を解除することにより発症した心不全を回復させる新規モデル(Reverse TAC)を樹立した。本研究はこのReverse TACモデルを用いて、心肥大・心臓線維化を回復させる鍵となるプロセスを同定すると共に、心臓サイズの可塑性を阻害する病態機構の解明を目指すものである。申請者は従来のTACモデルを用いた解析から、低酸素領域に能動的に集積する炎症惹起型M1マクロファージが線維化を抑制することを明らかにしてきた。さらに今回Reverse TACモデルの解析を行ったところ、興味深い事に心機能回復期には炎症抑制型M2マクロファージが集積することが分かった。そしてマクロファージを除去するClodronate Liposomeを用いた検討から、心臓に集積するM2マクロファージは心臓線維化の消退に重要であることを確認している。本知見をさらに遺伝学的手法で検証するため、M2マクロファージのtranscriptome解析を行い、心臓線維化を消退させる候補因子群をリストアップしている。また、M2マクロファージの機能が低下したSTAT6欠損マウス、HIF-2α欠損マウス(Lysm-HIF-2α KO)を樹立・維持し、これらを用いてM2-Mφの線維化消退機構をin vivoにおいて検証中である。
2: おおむね順調に進展している
申請者らはこれまで組織リモデリング・組織線維化においてマクロファージを介する炎症プロセスが重要な役割を果たすことを明らかにしてきた。近年、組織マクロファージには炎症惹起型のM1と炎症抑制型のM2といった亜集団があることが知られている。申請者らは、低酸素誘導型転写因子HIF-1αを介する低酸素シグナルがM1真マクロファージ活性化において必須であることを同定してきた。更に従来のTACモデルを用いて、M1マクロファージが心臓低酸素領域に集積し、Oncostatin-Mの分泌を介して心臓線維化進展を抑制することを見出している。申請者らはこれらの研究背景をもとに本研究計画を立案し、TAC後に上行大動脈縮窄部を解除することにより心機能を回復させる病態モデル(Reverse TAC)を樹立した。Reverse TACモデルで解析を行ったところ、興味深い事に心機能回復期において炎症抑制型M2マクロファージが集積することが明らかになった。さらにマクロファージを除去するClodronate Liposomeを用いた検討から、心臓に集積するM2マクロファージは心臓線維化の消退に重要であることが確認された。本知見を遺伝学的手法で検証するため、M2マクロファージのtranscriptome解析を行い、心臓線維化を消退させる候補因子群のリストアップに成功した。さらにはM2マクロファージの機能が低下したSTAT6欠損マウス、HIF-2α欠損マウス(Lysm-HIF-2α KO)を樹立し安定的飼育に成功しており、これらを用いてM2マクロファージ由来の線維化消退機構についてin vivoでの検証を進めている。以上より、研究はおおむね順調に進展していると判断する。
今後は、M2マクロファージの機能が低下したSTAT6欠損マウス・HIF-2α欠損マウス(Lysm-HIF-2α KO)を用いてReverse TACモデルを解析し、M2マクロファージ由来の線維化消退機構が失われること、さらにはM2マクロファージのtranscriptome解析から抽出した心臓線維化消退因子候補群のいずれかによって線維化消退機能がレスキューされることを、in vivoで検証していく方針である。また申請者は、Reverse TACモデルを用いた解析から、心肥大回復過程ではプロテアソーム系を介する心筋細胞サイズ縮小が必須であり、時間経過と共に心機能の回復が困難になって心筋細胞の肥大も残存したままとなることを見出した。プロテアソーム系は心筋細胞サイズ調節において重要な役割を果たしていると考えられるが、その活性は細胞内ATPレベルにより制御されているため、本研究内ではさらに心筋細胞のATP産生機構に着目し、ATPレポーターマウス(GO-Ateam)および生化学的解析によりミトコンドリア活性の解析を進めている。さらに大変興味深い事に、申請者らは本研究で樹立したReverse TACモデルの解析によって、一度活性化した線維芽細胞は一旦不活化しても容易に再活性化すること(すなわち、活性化閾値の低下が認められること)をも見出した。このような線維芽細胞の潜在的活性化は心臓線維化消退・心機能回復の大きな障害であると考えられる。このような活性化閾値低下のメカニズムを解明するため、線維芽細胞活性化を担うsmooth muscle α actinおよびcollagen 1a1遺伝子近傍のエピジェネティック修飾様式に着目した解析を推進している。
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