研究課題/領域番号 |
18H02368
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研究機関 | 公益財団法人実験動物中央研究所 |
研究代表者 |
高橋 武司 公益財団法人実験動物中央研究所, 実験動物研究部, 部長 (80335215)
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研究分担者 |
玉井 恵一 地方独立行政法人宮城県立病院機構宮城県立がんセンター(研究所), がん幹細胞研究部, 部長 (40509262)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ヒト化マウス / Fc受容体 / 自然免疫 / マクロファージ / 抗体医薬 |
研究実績の概要 |
NOGマウスを遺伝子改変することによりよりヒト細胞の生着能を亢進させるために、いくつかのマウス自然免疫系の遺伝子をゲノム編集により破壊した。ヒト赤血球の生着性が優位に延長するNOG-C3KOマウスを用いて、さらにクロドロン酸によりマウスマクロファージを枯渇させると、1回のヒト赤血球の移入により3週間程度の維持が可能となった。一方NOGマウスでは同条件で1週間が限度であった。C3に関連する補体活性化経路に関連する分子としてC1q, C4, MBL2、また異種赤血球に結合することが報告されているSiglec1をゲノム編集により破壊したが、C3欠損背景においてもこれらの遺伝子の破壊はヒト赤血球の生存には寄与せず、これらの分子とは異なる分子メカニズムが存在することが示唆された。このメカニズムをまず細胞レベルで検討したところ、ヒト赤血球は主にマウスの肝臓のマクロファージ(クッパ―細胞)によって貪食されていることを見出しており、今年度クッパ―細胞に特異的に発現する異物認識分子をスクリーニングすることによりヒト赤血球に結合するマウス分子を特定できた。現在この遺伝子のゲノム編集により破壊しており、その機能について検討中である。 また、マウス自然免疫系の異物認識にかかわる分子のシグナルを担う遺伝子についてその遺伝子欠損マウスを用いた研究を行ってきた。我々はこのマウスでは従来ヒト末梢血単核球の生着が有意に向上することを見出していたが、このマウスとヒト好中球の発生を可能にするヒトG-CSFノックインマウスを交配したところ、ヒト好中球が劇的に増加することを見出した。またこのマウスにヒト患者由来腫瘍(PDX)株を移植することによりヒト骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)の発生が可能であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NOGマウスに残存する自然免疫系の分子として補体C3を欠損させたことによりヒト赤血球の生存の延長が可能になったこと、またヒト赤血球を認識する新規分子の同定に至ったことによりさらに異種細胞を受容する能力を高めることが可能と考えられる。また、シグナル伝達分子の破壊を行ったマウスとヒトG-CSFノックインマウスを交配したマウスでは、ヒト好中球発生の顕著な亢進が認められ、さらには担癌実験においてヒトMDSCの発生まで可能となったことは、予想もしないことであった。これらのことから自然免疫系を標的とした免疫不全マウスの改善は順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
マウス自然免疫系の異物認識に関連する受容体分子群を可溶化タンパク質として発現させ、ヒト細胞表面に結合するかをスクリーニングする。スクリーニングによりヒト細胞に結合する遺伝子、またその遺伝子ファミリーについてもゲノム編集により破壊する。一方、ヒト多発性骨髄腫の細胞や、ヒト肺腺がん組織の移植を試みているが、生着は困難であった。遺伝子改変マウスを作製するのみではこれらの生着性を向上させることは困難である可能性も高く、ヒト細胞のニッチを形成するための手法としてヒト間葉系幹細胞(MSC)などに由来する人工組織を作製することを試みている。
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