本研究では、接着マシナリーがその機能を適切に遂行するために、局所的にクロマチン構造を変化させる機構を明らかにする。特にヘテロクロマチン領域に着目し、高密度ヌクレオソーム環境中で接着が確立されるメカニズムを明らかにすることを目指す。 本研究では、これまで、ショウジョウバエS2細胞を用いて、ヘテロクロマチンに局在する接着確立因子Dalmatian(Dmt)の結合因子を同定し、それらの中から接着に必須の因子を同定するスクリーニングを行ってきた。令和2年度は、このスクリーニングが予定通り完了し、その結果得られた、接着異常を示す遺伝子についての解析を行った。興味深いことに、姉妹染色分体間接着異常を示す25遺伝子のうち、7遺伝子は転写・翻訳に関わる因子であり、この結果は、接着に必要な因子の転写あるいは翻訳が阻害されることによって接着異常を引き起こすと考えられた。またクロマチンリモデリング複合体のサブユニットであるBrahma/SNF2は姉妹染色分体間接着の破綻が顕著な遺伝子の一つであり、PBAP/PBAF複合体サブユニットの一つBAP180をノックダウンしたところ、顕著な接着異常が観察された。複合体はDalmatianとin vitroおよびin vivoにおいて結合し、BAP180ノックダウンにより、Dalmatianのクロマチンへの結合が顕著に減少した。一方、コヒーシンのクロマチンへの結合は阻害されなかった。以上の結果より、コヒーシン自身というより、むしろ、Dalmatianのクロマチンへの結合を、クロマチンリモデリング因子が制御していることが明らかとなった。
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