クロマチンの高次構造とエピゲノム情報や遺伝子発現情報との間の関連付けは、これまで「細胞集団データどうしの間」或いは「1細胞データと細胞集団データとの間」で行われてきた。それに対し、同じ1細胞から得たクロマチン高次構造とエピゲノム情報を関連付けることができれば、より正確な分析が可能になる。しかし、それら複数の情報を同じ1細胞から取得する技術はこれまで存在しなかった。本研究の目標は、そのような技術を新たに開発し、情報の関連付けを真の1細胞解像度で行えるようにすることである。
2019年度に引き続き、クロマチン高次構造に関するデータ(Hi-Cデータ)とエピゲノム情報を鋭敏かつ総合的に反映する遺伝子発現データ(RNA-seqデータ)を同じ1細胞から取得する新技術の開発を、特任研究員のLeung博士や研究協力者のTanay博士(イスラエル・ワイツマン科学研究所)らと共に進めた。2019年度の研究により新技術を用いた実験プロトコールの原案を作ることができていたので、2020年度はこの原案からスタートし、得られるデータの品質を高め、かつ時間的・経済的に効率良く多くの細胞からデータが得られるようプロトコールを改善することに注力した。
その結果、データ品質に関しては、年度初め時点で問題のあった1細胞あたりのHi-Cデータの情報量を、RNA-seqデータ品質を損なうことなく通常の1細胞Hi-Cデータと同等のレベルにまで引き上げることができた。データ取得効率に関しては、liquid handling自動化システムを導入することで、96ウェルプレートにソートした1細胞から最速3日間でHi-CライブラリとRNA-seqライブラリが作成できるようになった。また1細胞あたりの実験コストも、 年度初め時点と比べてHi-Cでは1/2、RNA-seqでは1/4に減らすことができた。
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