研究課題/領域番号 |
18H02377
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
尾崎 省吾 九州大学, 薬学研究院, 准教授 (70510147)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | バクテリア / 染色体 / ダイナミクス / 細胞内シグナリング / 複製 |
研究実績の概要 |
染色体の機能構造を細胞周期の進行と連動して巧みに調節することは、細菌の増殖に極めて重要な役割を担う。しかし、細胞周期のイベントと染色体とを連携する分子やそのメカニズムは不明である。我々はカウロバクター菌をモデルとし、細胞分裂面を染色体の複製終結点と連携して制御する新規DNA結合蛋白を発見した。そのメカニズムと制御機構の解明は染色体の位置を介した新たな細胞周期制御機構の解明につながると考え、そのタンパク質の解析を行った。 2018年度、我々はこのDNA結合タンパク質の細胞内機能を解析した。このDNA結合蛋白をコードする遺伝子の不活性化は細胞分裂面と染色体複製終点との共局在性を大きく損ねた。また、この遺伝子の過剰供給は、細胞分裂装置の局在性異常を起こし、細胞分裂を阻害した。これらより、この蛋白が細胞内に至適量存在することが、細胞分裂面の位置制御に重要であることが示唆された。 次に、我々はこのDNA結合蛋白のメカニズムを解析した。まずDNA結合蛋白、および、細胞分裂装置の構成要素をいくつか精製し、それらの蛋白間相互作用を解析した。その結果、DNA結合蛋白が分裂装置の一部と直接結合することを明らかとした。変異体解析の結果、この結合にはDNA結合蛋白のC末端ドメインが必須であることまで突き止めた。 さらに、DNA結合蛋白のDNA結合特性を調べるため、精製蛋白を用いたDNA結合実験を行った。ChIP-seq解析より、この蛋白は細胞内で染色体の複製終結点近傍に結合することがわかった。そこで推定された結合領域をPCRで増幅し、DNA結合蛋白との相互作用を検討した。その結果、予想とは異なり、精製蛋白は配列非特異的に結合する性質を示した。よって、細胞内には我々の着目したDNA結合蛋白の活性を制御する未知の因子の存在が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回、細胞内で分裂装置と染色体複製起点を同時に観察することのできる菌株の構築に成功した。この菌株を用いることで、分裂装置と染色体の位置制御の動態をリアルタイムで観察することができるようになった。また、蛋白質の精製法を確立し、蛋白間相互作用を解析する実験系を構築した。この方法を用いて、機能に重要なモチーフの解析を進めることが可能となった。これらは当初の予定通りである。また現在論文執筆を進めており、2019年度中に国際ジャーナルで発表する計画である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに構築した実験手法を用いて変異体解析を進め、分裂装置と染色体複製起点とを連携する機能構造の解明をめざす。すでに複数の変異体を構築に着手しており、そのうちの一部については蛋白精製や解析を進めているところである。 分裂装置と染色体複製起点との連携には複数の遺伝子が関与している可能性が示唆されている。我々は遺伝学的相互作用を解析し、分裂装置と染色体複製起点との連携に関与しうる遺伝子の同定をめざす。その遺伝子の解析にも着手する。 現在解析中のDNA結合蛋白は異なる細菌間でよく保存されている。実際、系統的に離れた緑膿菌にも同様の遺伝子を見出しており、緑膿菌でもカウロバクター菌と同様の原理で分裂装置と染色体複製起点との連携が保たれている可能性が高い。よって本研究の遂行は、緑膿菌のような病原性細菌の細胞周期制御機構の解明にも貢献するといえる。
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