本研究は培養細胞OSCを活用し、レトロトランスポゾンの抑制に関わる因子を同定するとともに、生化学を駆使して各因子の機能を解析することで分子機構の全体像を理解することを目的としている。培養細胞OSCにおいてトランスポゾン抑制に重要な遺伝子を新たにスクリーニングした結果、CG14438遺伝子を見出した。これまでpiRNAと呼ばれる小分子RNAとPIWIファミリータンパク質の複合体がレトロトランスポゾンの識別と発現の抑制に必須であることを報告してきたことから、RNA-seq解析で発現mRNAのプロファイルを検討した。その結果、Piwiノックダウン細胞よりもHP1aノックダウン細胞のmRNA発現パターンとCG14438ノックダウン細胞の発現パターンが近接していることが明らかとなった。したがって、CG14438は、piRNA経路よりもHP1aと同様に広範なトランスポゾン種抑制に関与していることが示唆された。以上の結果は、近年のハエ個体を用いた3つの論文の結論とほぼ一致しており、妥当なものであると判断された。次にOSCにおけるmRNA-seq実験でCG14438ノックダウン細胞とHP1aノックダウン細胞で発現上昇するレトロトランスポゾン種に若干の違いを見出した。これらの違いがHP1aやCG14438の結合特異性によるものなのか、それとも二次的な影響であるかを解析するため、CG14438タンパク質に対する高品質マウスモノクローナル抗体を作成した。CG14438に対する抗体を用いて免疫沈降し網羅的にCG14438相互作用タンパク質を探索した結果、HP1aタンパク質に加えて機能未知なタンパク質を一つ同定した。現在、得られた抗体を用いて、CG14438によるトランスポゾンの抑制機構に迫るべく実験を継続している。
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