研究課題/領域番号 |
18H02381
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
新冨 圭史 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (60462694)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 染色体 / 再構成 / トポイソメラーゼII / ヌクレオソーム / DNAトポロジー |
研究実績の概要 |
どのようにしてクロマチンは染色体へと折りたたまれるのだろうか?この疑問を解くために、私は、カエルの精子核とわずか六種類の精製タンパク質(コンデンシンⅠ、トポイソメラーゼⅡ [トポⅡ]、コアヒストン、三種類のヒストンシャペロン)を用いて分裂期染色体様構造を試験管内に再構成するプロトコルを開発した。染色体構築に必要最低限のタンパク質が同定されたことよって、次の目標はこれらのタンパク質の働きによって生み出されるクロマチンの動作原理を理解することへとシフトしたと言える。しかし、この目標を着実に達成するためには、現在の再構成プロトコルをさらに洗練し、細胞内での染色体構築プロセスをより忠実に再現できる再構成系へと発展させることが不可欠である。 2018年度は、洗練化の第一歩として、反応液に含まれるタンパク質以外の成分の適切な濃度を検討した。その結果、Mg(2+)とK(+)の二種類の陽イオンの濃度を変化させることによって、より太く、相互の絡まりがより解消された染色体を再構成できる条件を見出した。また、当初の反応条件では、実際の細胞内とは異なり、トポⅡの染色体軸に沿った局在が観察されなかったが、イオン濃度を最適化によって、この局在もうまく再現できるようになった。これらの結果から、細胞内に存在する陽イオンがDNAの負の電荷を中和することに加えて、トポⅡの機能を調整している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時には、「染色体再構成反応の洗練化」の他に、洗練化された再構成系を用いた「染色体軸ができるしくみの理解」と「ヌクレオソームの機能の理解」という具体的な目標を掲げた。 2018年度には、計画全体の律速段階であった染色体再構成反応の洗練化を終えることができた。洗練化の過程で、染色体構造とその周囲の環境の関係性についての体系的な解析が可能になったことは、非常に大きな収穫だと言える。さらに、染色体軸の主要な構成タンパク質であるトポⅡの機能を解析する手がかりが得られ、二番めの目標の達成に向けて検証すべき仮説を具体化することができた。さらに、三番めの目標に対しては、ヒストンH2A-H2Bの変異体をはじめ、解析に用いるタンパク質の調製が順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
トポⅡ変異体とイオン濃度操作を組み合わせた再構成実験の結果から、「トポⅡは、キラリティ依存的にDNAの交叉を安定化する性質を介して染色体軸近傍に集中し、さらに、軸周囲に広がったDNAループ間に絡まり導入することにより染色体全体の構造維持に貢献する」との作業仮説を立てた。幸い、これまでの研究によって、トポⅡの酵素学的な作用機序はきわめて詳細に理解されている。そこで、過去の文献を参考にして、DNA基質のトポロジーやイオン濃度の異なる条件下において、トポⅡの生化学的活性(DNAとのアフィニティ、DNAの絡まりの解消と導入、DNAへの結び目構造の導入)を定量的に評価する。すでに染色体再構成系での欠損が観察されている変異体と野生型を比較することにより、上記の仮説の妥当性を検討するうえで重要な知見が得られると期待している。以上の研究計画には過去の研究で十分に顧みられなかった重要な問題が含まれており、すでに意外性のある予備的知見が得られていることから、なるべく速やかに誌上発表をすることを目指す。 ヌクレオソームに着目した解析では、H2A-H2Bだけでなく、H3-H4にも操作を加える実験を予定している。そのためには、もともとヒストンH3-H4を含んだカエルの精子核の代わりに、すべてのヒストンを含まないマウスの精子核を出発材料として用いる改変型再構成系が必要である。2019年度中には、クロマチンリモデラーなどの新たな因子を加える必要性を検討し、マウス精子核由来のDNA上に任意のヒストンを含むヌクレオソームを再構成するプロトコルを完成させることを目指す。
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