研究課題/領域番号 |
18H02382
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 聡 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (30283641)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 蛋白質ダイナミクス / 一分子蛍光測定 / 蛋白質フォールディング |
研究実績の概要 |
生体分子の運動性を分子動力学計算により再現し、機能を理解することは、低コストの薬剤開発などにも繋がる重要課題である。そのために、実験データを基に計算データを検証する必要がある。代表者はライン共焦点顕微鏡という新技術を開発し、連続的な一分子蛍光観察の時間分解能を短縮し、計算データとの比較に十分な時間精度を達成した。しかし、生体分子の大規模な構造変化は稀にしか起こらないために、実験データと計算結果の比較は未だに難しい。本研究では、溶液の高速混合装置を改善してライン共焦点顕微鏡に組み合わせることで、稀にしか起こらない生体分子の構造変化を多数観察することを可能にする。ユビキチンのフォールディング過程を対象として、実験データを分子動力学計算の結果と比較することで、揺らぎながら構造を形成し機能を果たす生体分子の実体を理解することを目指す。 2018年度は、時間分解能の高い一分子蛍光分光法であるライン型共焦点顕微鏡の新しい改良として,ハイブリッド光検出器を用いて10マイクロ秒の時間分解能で5ms以上の時間にわたって,一分子が発する蛍光を観察する装置を完成した.特に,短時間内に大量に放出される光子を数え落としなく計数するための手法を最適化した. これは一分子蛍光観察の方法として,世界的に我々だけが達成した最短の時間分解能である. 2018年度はさらに、一分子蛍光測定に用いる対物レンズを水浸レンズとし、流路表面に吸着した試料に由来するアーテファクトを取り除くことに成功した。また、ポリアラニンを蛍光色素で二重ラベル化し,ポリアラニン配列のヘリックス形成に応じて蛍光移動効率が変化すること,さらに、色素間距離がマイクロ秒以内の時間領域で変動を示すことを確認した。また,ポリプロリン配列のシストランス異性化反応について,一分子蛍光分光法を用いることで追跡可能であることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではライン共焦点顕微鏡と溶液混合装置を組み合わせることで、タンパク質のフォールディング過程における速度論的な構造変化を一分子レベルで計測することを目的とした。しかし、2018年当初の研究の過程で、この実験を困難にしている原因として、これまで使用していた対物レンズの選択が最適ではなく、フローセル表面に吸着した試料を主に観測していたことに気づいた。この問題に対処するため、対物レンズを水浸レンズに交換するとともに、水浸レンズに最適化した光学系の再設計を行なった。その結果として、フローセル表面と相互作用することで一分子蛍光信号が変形していた問題を解決することができた。上記の問題は研究を計画していた当初は予想していなかったため、実際に一分子測定装置と溶液混合装置を組み合わせた観測をスタートすることが遅れた。しかし、水浸レンズを用いない場合による溶液混合実験には成功しており、大きな研究の遅れではなく、おおむね順調に研究が進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、第一に、昨年度開発した水浸レンズを用いた一分子観察装置を用いて、できるだけ多くのタンパク質試料の蛍光観測を実施する。さらに、光学系に合わせた溶液混合セルを作成し、溶液混合に同期した一分子観察を実施する。 観測する対象として、ポリアラニンのヘリックスコイル転移とそのダイナミクスの解明、天然変性状態にあるタンパク質断片であるPNtの水溶液中における構造の不均一性、液液相転移を示すLAF-1の単分子状態における構造特性、さらに、γサブユニットが回転運動を示すF1-ATPaseのαとβサブユニットの構造変化ダイナミクスについて、それぞれに大学院生を割り当てて取り組む。 2019年度は第二に、水浸レンズに合わせた溶液混合装置を開発する。昨年度において、流体力学的絞り込み効果を用いて、試料流から変性剤を500マイクロ秒以内に拡散させることに成功した。さらに、この装置を使ってF1-ATPaseの運動の観察にも成功した。しかし、昨年度の研究の過程で、この装置は水浸レンズを基に構築した光学系には直接は応用できないことが判明した。したがって、混合流路の深さを10倍以上に広げ、同時に試料の逆流を防ぐための流体抵抗を十分に確保した流路を設計する。設計には流体力学計算を用いる。作成した流路を用いることで、タンパク質のフォールディングダイナミクスの計測を実施する。
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