研究課題/領域番号 |
18H02383
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
白木 賢太郎 筑波大学, 数理物質系, 教授 (90334797)
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研究分担者 |
加納 英明 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (70334240)
冨田 峻介 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (50726817)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 液-液相分離 / ドロプレット / 液滴 / 凝集 / タンパク質 |
研究実績の概要 |
タンパク質の組み合わせによる液-液相分離の現象の再現を行なった。実験系として天然構造を持ったオボアルブミンとリゾチームの組み合わせを調べたところ、イオン強度を低く保つことで、球状をした液滴(ドロプレット)を形成することがわかった。低分子によるコントロールが可能なのかを調べたところ、液滴はきわめて溶融しやすく、コスモトロープやカオトロープなどのタイプによらず、20 mM程度の添加でも形成しなくなった。一方、構造を部分的に壊したタンパク質を準備し、同様の条件で混合すると、液滴ではなく凝集体を形成することがわかった。 固有の構造を形成しないポリアミノ酸と免疫グロブリンG(IgGの)の組み合わせによって形成する白濁した状態は、条件によって液-液相分離してできた液滴と、固-液相分離して形成される凝集体とにわかれることがわかった。 ポリアミノ酸とIgGによる液滴の形成には、ポリアミノ酸のサイズやpHの影響を強く受け、最適な条件があることもわかった。このような濃縮された状態は可逆性が高い場合にはIgGの濃縮法に利用できるため、どのような溶液組成で可逆性が高まるのかを調べた。そのアルコールやアミノ酸、オスモライト、コスモトロープ、クラウダーなどのタンパク質溶液状態を変化させる溶液系を構築した。その結果、ごくわずかなアルコールによって可逆性が改善することがわかった。最大で100 mg/mlのタンパク質でも液滴を形成させたのち再溶解させることが可能であり、この条件はタンパク質を高濃度化することが不可欠な溶液製剤に利用できると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
液-液相分離する系の構築を進めた。まず大きな進展として、オボアルブミンとリゾチームとを低イオン強度で混合することで液-液相分離し、液滴(ドロプレット)ができることを明らかにした(Int. J. Biol. Macromol. 120, 10-18 (2018))。きわめて単純な系だが、天然構造を持ったまま液滴ができることは興味深い。まったく同じタンパク質の組み合わせでも、オボアルブミンを加熱させ部分変性させると、同じ条件で混合すると塩溶性の低い凝集を生じることがわかった。液滴はイオン強度が20mM以上で、フッ化ナトリウムでもアルギニン塩酸塩でも溶解するが、凝集体は100 mMのイオン強度でも完全には溶解しなかった。液滴と凝集体の成長の仕組みも異なり、液-液相分離した液滴は融合することで大きくなることに対し、凝集体は前駆体が会合することで大きくなった。このような凝集と液滴との違いがどのように制御されうるのか興味深い論点であり、現時点での成果を総説にして報告した(Curr. Pharm. Biotechnol. 19, 946-955 (2018))。 ポリグルタミン酸と免疫グロブリンG(IgG)による液滴を形成させることでIgGの濃縮技術に使えることを明らかにした(J. Pharm. Sci. 107, 2713-2719 (2018))。なかでもアルコールを加えることで液滴の形成および再溶解率が改善することを明らかにして論文に報告した(J. Chem. Phys. 150, 064903 (2019))。
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今後の研究の推進方策 |
オボアルブミンとリゾチーム液-液相分離して液滴を形成し、また、低分子によるコントロールを受けることも明らかになった。これは当初の科研費の申請内容のゴールの一歩手前にある成果だと言える。ただし現在ではメカニズムが明らかにされていない。そこで、変性オボアルブミンと天然リゾチームとがどのように会合するのかを明らかにするために、顕微鏡の観察のほか液体クロマトグラフィを用いてタンパク質の量を定量する。 ポリアミノ酸とIgGの系は濃縮に使えることがわかった。今後はこの系が溶液製剤に応用できると考え、タンパク質溶液の粘度やタンパク質構造の変性度合いを明らかにする。液滴を形成するとおそらく粘度が低下すると予想され、取り扱いやすい高濃度溶液を調整する方法になると考えられる。 また、IgGを高濃度にして低温にするとオパレッセンスと呼ばれる状態を形成することが再現できた。この状態は一見すると白濁しており、液-液相分離してできた液滴にも見えるが、超遠心しても沈殿物がみられず、また、動的光散乱法で観察しても液滴や凝集体に相当するサイズの物質が観察できなかった。おそらく水部分がヌケることでレイリー散乱しているのではないかと想像できる。このような珍しいタイプのある種の液-液相分離の特性を明らかにすることは、高濃度タンパク質の振る舞いを理解する上で重要ではないかと考える。
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