非コードRNAが司る遺伝子制御は原核生物から真核生物に至るまで広く保存された分子機構である。これらの分子機構では非コードRNAがガイドRNAとしてはたらき、RNA依存性ヌクレアーゼを標的となる核酸に導くという共通原理が存在する。しかし、その分子機構はきわめて多様であり、不明な点が多く残されている。 本年度は、ショウジョウバエ卵巣体細胞由来の培養細胞株から内在性のPiwi-piRNA複合体を精製し、その結晶構造を決定した。その結果、ショウジョウバエ由来Piwiは他のArgonauteタンパク質と同様に4つのドメイン(N、PAZ、MID、PIWI)から構成されており、カイコ由来PIWIであるSiwiと類似の構造的特徴を持つことが明らかになった。AGOサブファミリーに分類されるArgonauteと異なり、PiwiはpiRNAの5'末端のリン酸基を金属イオン依存的に認識していた。PiwiのPIWIドメインはArgonauteに共通のRNaseHフォールドを持っていたが、触媒部位はDEDHテトラッドではなくDVDKテトラッドにより形成されていた。in vitroにおけるRNA切断実験の結果、Piwiは標的RNAを切断しない一方、DVDKをDEDHに変異させたPiwi変異体は標的RNA切断活性を示した。さらに、in vitroの結合実験の結果、Piwiは数塩基のミスマッチを含む標的RNAにも結合する一方、Piwi変異体はミスマッチを含む標的RNAと解離しやすいことが明らかになった。これらの結果から、PiwiはRNA切断活性を失い、RNA依存性RNA結合タンパク質としてトランスポゾンの転写を抑制するように進化したことが示唆された。
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