研究課題/領域番号 |
18H02392
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
有田 恭平 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 准教授 (40549648)
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研究分担者 |
西山 敦哉 東京大学, 医科学研究所, 准教授 (50378840)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | DNAメチル化 / ユビキチン / DNA複製 / エピジェネティクス / 構造生物学 |
研究実績の概要 |
哺乳類のCpG配列中のシトシン塩基のメチル化は、遺伝子サイレンシング、ゲノムインプリンティング、X染色体不活化、トランスポゾンの発現抑制など様々な生命現象に関与する。DNAメチル化は細胞形質を決定するので、哺乳類が多種多様な細胞集団を維持するためにはDNAメチル化パターンが次世代に正確に受け継がれていく必要がある。本研究ではDNA維持メチル化に必須の因子であるDNAメチル化酵素DNMT1とユビキチンE3酵素UHRF1に焦点をあて、DNA維持メチル化の基本原理の解明を目指す。これまでに、UHRF1によってユビキチン化されたヒストンH3がDNMT1をメチル化DNAに呼び込む分子機構を解明した。本申請ではDNA複製因子によるDNA維持メチル化の制御に着目して研究を行った。 これまでにK126がメチル化された複製因子LIG1(LIG1K126me3)とUHRF1のTTDドメインとの複合体の結晶構造解析に成功した。この構造からTTDのArg-Binding CavityにLIG1のArg121が入り込むことが、UHRF1とLIG1の高親和性の相互作用に重要であることを解明した。このArg-Binding Cavityに入り込む化合物はUHRF1の機能を阻害すると考えられる。本年度は、TTDのArg-Binding Cavityに結合する化合物の探索に向けた研究を行った。 複製因子PAF15がUHRF1によってユビキチン化され、DNMT1を複製サイトに呼び込むことを発見した。さらにDNA維持メチル化には2つのモードがあることがわかり、PAF15はDNA複製後に直ちに起こるDNA維持メチル化に重要であることを解明した。本研究成果は、Nature Communicationsに採択された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【UHRF1 TTDドメインに結合する化合物の探索】 構造生物学的な観点から、UHRF1 TTDと化合物の相互作用を解析することを目指し、TTD単独の結晶化条件の探索を行った。30 mg/ml TTDを用いて、最適化した結晶化Bufferで再現よくTTD単独の結晶が得られた。大型放射光施設Photon FactoryでX線回折実験を行い1.8Å分解能の回折強度データを得た。分子置換法で位相決定後、構造解析を行った。結晶中のTTDはArg-binding Cavityに溶媒側から低分子化合物がアクセスできるパッキングをしており、ソーキング法による化合物との複合体の調製に適した配向でTTDが結晶化していることがわかった。さらに、in silico screeningによりTTDのArg-Binding cavityを標的にした化合物の探索を行い、7種類の化合物を選別した。 【複製因子PAF15による新しいDNA維持メチル化の制御機構を解明】 ユビキチン化されたPAF15がDNA複製の直後に起こるDNA維持メチル化を行い、これまで知られていたユビキチン化H3はDNA複製から遅れたDNA維持メチル化を行うことを明らかにした。これによりDNAメチル化維持の堅牢性が保たれている。さらに予備的にユビキチン化PAF15がPCNAのsliding速度を制御することを明らかにしており、これの構造生物学的な知見を得るためにクライオ電子顕微鏡による観察を行った。
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今後の研究の推進方策 |
UHRF1は様々ながん細胞で高発現し、がん抑制遺伝子などの発現に異常をもたらす。このことからUHRF1はがんの薬剤開発の標的分子になると考えられている。2019年度にUHRF1のTTDに結合する候補化合物をin silico screeningで行ったので、これらを入手しThermal shift assayや競合ペプチドを用いた蛍光変更解消実験によって化合物との結合を実験的に評価する。 2019年度にユビキチン化PAF15による新たな機能を生化学的な実験で見出したので、これを構造生物学的な観点から解明する。予備的にクライオ電子顕微鏡観察による構造解析を進めているので、今後は観察を継続して行っていく。
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