研究課題
好熱菌由来ロンボイドプロテアーゼを対象として、多様な疑似膜環境におけるプロテアーゼ活性の比較および安定性についての検討を行うことで、膜タンパク質に対する周辺環境の影響を評価した。可溶性基質を用いたアッセイから、DDMなどのmildな界面活性剤に可溶化されたロンボイドプロテアーゼに対し、DPCなどのharshな界面活性剤に可溶化された状態の方が、活性が高いことが判明した。また、アルキル鎖長が短い界面活性剤存在下の方が、活性が高くなる傾向も見られた。この傾向は、可溶性基質でも膜ペプチド基質も概ね同様であった。さらに、多様な界面活性剤に可溶化した後、異なる温度でインキュベートした後の酵素活性を調べることにより、熱安定性の評価を行った。その結果、DDM系界面活性剤に比べ、DPC系界面活性剤は熱安定性が低くなること、さらにアルキル鎖長が短い方が、熱安定性が低下することも明らかとなった。以上のように、酵素活性と熱安定性が逆相関関係になるという興味深い知見を得ることができた。一方、次年度以降のNMR構造解析に向けた、ロンボイドプロテアーゼの発現量向上にも取り組んだ。遺伝子配列の最適化、発現株の検討により発現量は2倍程度向上した。酵母発現系の活用なども行ったが、顕著な発現量の向上は見られなかった。さらに、異なる膜環境における活性評価およびNMR構造解析を展開することが可能となる膜タンパク質系の探索も行った。現在、好熱細菌由来光受容膜タンパク質、およびトランスポーターが安定に発現し、高分解能なNMRスペクトルが得られるようになってきたことから、次年度以降、本対象を標的とした研究も進めていく。
2: おおむね順調に進展している
膜タンパク質における周辺環境の影響について、今年度は疑似膜環境である界面活性剤中における評価を行った結果、膜プロテアーゼの熱安定性と活性には、逆相関関係が見られることが明らかとなった。熱安定性は分子の動的特性と関連性があることから、本研究課題のテーマである、ダイナミクスと活性の相関を示唆する、重要な研究成果が得られた。次年度以降、脂質二重膜環境における活性評価を展開していくうえで、基盤となる結果となる。
今年度、疑似膜環境である界面活性剤のタイプに依存し、酵素活性が変調を受けることが明らかとなったが、次年度は、より真の生体膜環境に近い、脂質二重膜環境における活性評価を中心とした研究を展開していく予定。また、膜タンパク質の動的構造解析を進めるために、現在対象としているロンボイドプロテアーゼの発現量は、十分とは言い難いことから、さらなる高発現に対する取り組みを行う。一方で、高分解能のNMRスペクトルが得られることが判明した膜タンパク質群についても、次年度以降、研究対象に組み入れ、周辺環境の構造・機能への影響を調べていく。
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